モンキー的映画のススメ

モンキー的映画のススメ

主に新作映画について個人の感想、意見を述べた文才のない男の自己満ブログ

映画「メタモルフォーゼの縁側」感想ネタバレあり解説 「好きなもの」が同じなら年齢なんて気にしない。

メタモルフォーゼの縁側

森田芳光監督が「僕達急行」って映画を製作した時に、「趣味を持たない人の怖さ」ってことを話してて。

この言葉が一体何を示すのか具体的にはよくわかってませんが、無趣味の奴って人生つまんなそうだなってのは思います。

金と仕事と女、それくらいのことしか頭にないんだろうなって。

 

今やSNSを通じて、いろんな世代の人とコミュニケーションがとれる時代。

僕も年齢や性別を越えていろんな映画好きの人たちと仲良くさせてもらってます(まだ国境は越えられてないw)。

実際オフラインで会って仲良くなったりもしているほど。

 

「こんな映画あるから見て、おもしろいよ」

「この映画ってこういうことを言ってるんじゃないかな」

自分にない知識や視点を持ってる人と語り合ったり教えあうことで、今まであった視野が広がるし景色が変わる。

何より私生活が豊かになると思うんですよ。

 

こんな素晴らしいことはないです。

だから趣味は持った方がいい、と断言しますw

 

今回鑑賞する映画は、「趣味」を通じて出会った少女と老婆が、ある挑戦に挑むお話。

ずっと好きだったものについて熱くなれる仲間が、いかに頼もしくかけがえのない存在であるかを、改めて教えてくれる映画の予感。

きっと見ながら「尊い・・・」とか思ってしまうのかもしれないw

 

早速観賞してまいりました!!

 

 

作品情報

鶴谷香央理原作の同名コミックを映画化。

年齢も立場も違う女子高生と老婆が、BL漫画を通じて年の差を感じさせない友情を育んでいく、女性の友情物語。

 

青くて痛くて脆い」で誰もが経験したであろう「イタさ」を見事にスクリーンに映し出した狩山俊輔が監督を務め、数々のTVドラマや映画で名作を生み出した岡田恵和が脚本を手掛けた。

 

主演には名子役から大人の女優へと進化を遂げる芦田愛菜と、日本が誇る大女優・宮本信子という異色のコンビ。

同じ趣味によって距離を近づけていく際の芝居に要注目だ。

 

今や共通の趣味さえあれば、年齢を忘れて仲良くなれる時代。

2人のような関係に憧れる映画なのかもしれない。

 

 

 

あらすじ

 

佐山うらら(芦田愛菜)、17歳。

みんなみたいにキラキラ出来ない女子高生。

唯一の楽しみは、毎日こっそりBL漫画を読むこと。

 

もうひとりの主人公・市野井雪(宮本信子)・75歳。

夫に先立たれ、人生の終わりが近づく今日この頃。

 

ある日、ふたりは同じ本屋にいた。

うららはレジでバイト。

その目の前に出された一冊のBL漫画。

顔を上げるとそこにいたのは雪だった。

 

由紀はBLの意味さえ知らず、きれいな表紙に惹かれ思わず手に取っただけ。

初めての世界に驚きつつも、男子たちの恋物語にすっかり魅了され、老いた身体にときめきがよみがえる。

 

続きが読みたい。

雪は新刊を求め、再び本屋へ向かうのだった。

 

 

こうして出会ったうららと雪。

好きなモノを語り合える「友達」ができた。

 

あくなきBL愛を語り合う日々の中、雪が言う。

「うららさんは自分で漫画を描きたいと思わないの?」

 

そして、ふたりはある挑戦を決意。

それは創作漫画の即売会「コミティア」への出展。

 

年の差58歳、うららと雪の挑戦が始まった。

そしてそれは、あるメタモルフォーゼ(=変身)をもたらしていくことになる——。(HPより抜粋)

youtu.be

 

 

監督

本作を手掛けるのは、狩山俊輔。

 

劇場版仮面ライダー555」での助監督経験を経て、「映画 妖怪人間ベム」で監督デビューした狩山監督。

 

僕としては「青くて痛くて脆い」が面白かったので、今回も見ようと観賞に臨んだ次第です。

色々演出面に難ありではありましたが、あそこまで痛々しい登場人物を見せてくれたのは最高だったので、今回も人物描写に期待です。

 

キャスト

主人公うららを演じるのは、芦田愛菜。

 

ドラマ「Mother」や「マルモのおきて」などで国民的名子役として名を馳せた愛菜ちゃん。

映画でも「告白」や「パシフィック・リム」でもその存在感を発揮していましたが、大人になってから彼女の作品を見るのは初めてです。

 

CMやバラエティでの礼儀正しく気品あふれる姿を見て、子役あるある的な「落ち目」の気配は一切なく、このまま素敵な大人として成長してくれるのだろうと感じております。

最近だと「星の子」は評判が良かったようで、今後見て見ようと思っています。

 

 

本作で演じるにあたって、原作から放たれる温かさに引き寄せられるほどのめり込んだとのこと。

さらに10年ぶりの競演となる宮本信子から「頼んだわよ」という言葉に嬉しさを感じたそうで、演技にも影響が出たと仰っています。

www.moviecollection.jp

 

他のキャストはこんな感じ。

市野井雪役に、「マルサの女」、「キネマの神様」の宮本信子。

河村紡役に、アイドルグループ・なにわ男子のメンバー、高橋恭平

コメダ優役に、「偶然と想像」、「花束みたいな恋をした」の古川琴音

橋本英莉役に、本作で映画初出演の汐谷友希

佐山美香役に、本作で映画初出演のミュージシャン、伊東妙子

花江役に、「累ーかさね-」、「君は月夜に光り輝く」の生田智子。

沼田役に、「バイプレイヤーズ もしも100人の名脇役が映画を作ったら」、「青くて脆くて痛い」の光石研などが出演します。

 

 

 

 

 

 

 

 

BL漫画は一度も読んだことはないですが、趣味を通じて年齢の離れた人たちと交流することは僕の中で日常的なことでもあります。

きっと共感できるかもしれない、そんな期待です。

ここから観賞後の感想です!!

 

感想

尊いなぁ!

共に異なる孤独を抱える2人の人生に作一輪の花。

同じ趣味を持つ友達は誰が何というと最高なのだ!!

以下、ネタバレします。

 

 

 

 

 

 

 

 

自分と重なるよね。

BL好きを表に出せず鬱屈した日々を過ごす女子高生と、夫に先立たれたことで来る終幕に心が枯れつつあった老婆が、共通の趣味によって年齢を超えた友情と二人だから味わえる青春の日々を劇中漫画と共に描いた本作は、ニュートラルなギターの音色と縁側の如くほのぼのとした風景描写をローテンポで描くことによって、2人の間にほのかな温かさと尊さが醸し出された非常に素敵な映画でございました。

 

冒頭でも書いた通り、趣味を持たない人の怖さなんかよりも、こうして趣味で繋がっていく人たちの多幸感てのはホントステキなモノばかりで、雪さんの言葉を借りるとするならば、「思ってもみないことをすれば思ってもみない出来事が起こる」ことばかりなんですよ趣味でつながると!と、うなづいてばかりの映画でございました。

 

もうね、まるで自分の事のようです。

いきなり雪さんがうららに向かって「誰かとこういう話がしたかったの!」と近づくシーンで涙が出てしまいましたよ…。

それ俺です!みたいなw

 

こうして映画ブログをやってますが、これ以外にも僕はTwitterライブで生配信をやってまして、ブログとそれを通じてたくさんの人に知ってもらい、たくさんの人とお近づきになり、たくさんの趣味友ができたおかげで、今という日々を送れています。

 

同じ映画を見て感想を言い合ったり、時には愚痴を言い合ったり、時には対立したりと趣味を通じてその人となりを知るわけです。

 

本名こそ知らないし、何なら年齢もバラバラ。

そんなことを忘れて互いを信頼し、会って話すを繰り返していく。

 

するとどうだろう、その後の映画を見ていくと不思議と視野が広がり解釈も変化していく。

恐らく孤独に淡々と映画を見てたらこんな目線で見てないはず。

 

さらに誰かと話すとその映画をいつまでも記憶出来たりもするんですよね。

趣味を語り合える友達がいることで、自分の心にしまったままの状態の思いがさらに輝きを増す、思い入れが増す。

趣味友の存在が、人生を豊かにする。

 

気が付けば次いつ会えるだろうという期待が日常を謳歌し、うららのように校舎を駆けながら家路を急ぐ気持ちにシンクロしていく。

 

そう、正にうららも雪さんも自分でした。

 

 

僕自身、二人の丁度間に挟まる年齢になるからか、どちらの孤独感も非常に理解できるのも良かったですね。

 

うららはうららで、BL好きを人に知られたくない引っ込み思案な性格で、陽キャな女子たちにBLを軽く扱われている姿を見て「嫉妬」してしまうんですよね。

 

本来ならうららも陽キャのように堂々とBLを読んでクラスメイトと仲良くなれるはずなのに、性格が災いしてしまってるから彼女を妬んでしまう。

自分にないモノを持ってるから「嫉妬」してしまう。

それは「羨望」の裏返しであり、単純に羨ましいと思えばいいのに、妬んでしまう。

 

この感覚が僕にもどことなくあったりするというか心当たりがあるというかw

それこそこの映画は絶対俺の方が大好きなはずなのに、大して映画をおみてないような奴のツイートの方が「いいね!」が伸びてるときとかw

あれ未だに嫉妬するんですよね~ww

な~んか悔しいのよw

でもそれって羨ましいだけなんですよw

そんな自分をうららに重ねて見てましたねw

 

 

そして雪さんのキャラが非常に良い!

たまたま寄った本屋で「絵がキレイ」だからって理由で手にしたBL漫画に夢中になっていく過程が観ていてずっと微笑ましい。

え~!あらっ!うそ!どうなっちゃうの!?

人生折り返しもとうに過ぎた老齢のご婦人が、どちらかというと若い世代に好まれるBLでこんなに新鮮な表情をしてるんですから可愛くて仕方ありません。

 

僕も映画を見始めて10年以上たつ趣味レベル中堅組ってこともあって、雪さんのようにこんな新鮮な感情が芽生える事って早々ないんですけど、こういう感情って何歳になっても失いたくないなぁと思えた瞬間でした。

 

58歳という年齢差がありながら「うららさん」と呼ぶのも好印象ですよね。

 

人生では大先輩ですけど、BL仲間としてはペーぺーなわけですからうららの方が先輩なわけで(多分そういう理由でさん付けしてるのではないと思うけど)、彼女から色んなタイプのBLを教えてほしい、という思いから徐々に「うららさんに会いたい」って気持ちに変わっていくのが料理を作ってる姿から窺えるんですよ。

 

趣味でつながる友達ってここまでウキウキにさせてくれるんですよね。

 

またこの時に出てくる料理がまぁおいしそうなんですわw

やっぱりお婆ちゃんだからなのか、お茶菓子の回数が多い多いw

みたらし団子に娘さんのノルウェー土産、カフェで食べるプリンアラモードなんかも非常においしそうです。

 

そして雪さんが作る料理も素晴らしい。

カレーを作るときに鼻歌を歌いながらリンゴを吸う音、カレールーを細かく刻む音、タラの芽やこごみのてんぷらを揚げる音、ネギを刻む音、イカと大根の煮物を煮込む音、コロッケサンドを包丁で切る音。

雪さんちの匂いが料理の音によって刻まれていき、雪さんの鼻歌と笑顔が見てる我々に幸せを運んでくれる。

 

マジでね、縁側で食いてえ!!ってなりますw

 

そうそう、縁側ってのがまたいいんですよね。

芦田愛菜さん曰く、縁側とは「中と外を繋ぐ場所」だと仰ってましたが、うららにとってあの縁側は正に「外と中を繋ぐ場所=できることとできないことを繋ぐ場所」になっていくわけです。

 

あの縁側で雪さんとBL談議に花を咲かせたから、BL漫画を描いてみようという気になれたし、何より雪さんが背中を押してくれたから日常にも大きな変化が生まれた。

 

それは陽キャのクラスメイトに嫉妬を抱かずに応援できたことだったり、ある事に踏みとどまっていた幼馴染の手を引っ張ってやれたことだったり、これまで引っ込み思案だった自分がメタモルフォーゼ=変身できたことなんですよね。

 

こうした変化以外にもあの縁側があったからこそ、うららが書いた同人漫画のセリフに繋がるんですよね。

「縁側で食べるカレーは最高においしいんだよ」

正直お世辞でもうまいとは思えないあの絵に、妙な説得力が生まれるんですよねw

俺が宇宙人だったら興味持つよ!

何?縁側?カレー?最高なの?いいなぁ…みたいなw

 

僕自身実家もおじいちゃん家にも縁側ってものが無くて、ピンとこない部分はあるんでんすけど、あそこで寝転んだり将棋打ったり、それこそマンガ読んでたら気持ちいもんなぁってイメージはあります。

誰かと向かい合っても良いし、何なら庭を眺めながらあれこれ会話してもいい。

 

そうだよ、同じものを眺めながら話をするってのは、映画を見ることやBLを読むことのように「同じもの」を同じ目線で見るのと同じなんですよ。

 

同じ場所を見てるのに、こうも視点が違うかと感心することもあれば、対立することもある。

でもそれが気持ちいいんだよなぁ。

そんな時に軽やかな風が流れてくるんだなぁ。

 

原作もこんな世界観なの?

色んな映画を見ていると、自分の視点でモノを見がちで「こうでないとダメだ」「こうあるべきだ」という気持ちが先行してしまう悪い癖があるんですが、この映画終始のほほんとゆったりなペースで進行していくんですね。

 

正直こういうパターンの映画って僕眠くなっちゃう性質なんですけど、なぜかずっとワクワクして見ていられたんですよw

 

具体的に話すと、物語における起承転結はあれど、感情の起伏とか物語における起伏というものが全くないんです。

ずっとニュートラルな空気で進行してくといいますか。

終始ゆるいとでもいいますか。

 

きっと劇中音楽が観る者の感情をコントロールしてる点も大きいんですけど、色々演出を抑えて描いてるようにも見えるんですね。

雪さんの家もそこまで奥行きを感じさせないし、全体的に映像が平面的なんですよ。

普通映画ならこの辺こだわってほしい所なんですけど、この映画にはそういう文句が出ない。

 

コメディ要素もどちらかというオフビートな感じで、くすっと笑える感じ。

それこそ雪さんが次巻が出るまで1.5年かかることに気付き、寿命から逆算してるところとか、なんなら腰を痛めてコミティアに参加できない緊急事態が勃発するんだけど、それをも重く描かずに淡々と描く。

うららが心の中で自分をズルいと吐露する場面も、ある程度の変化を見せつつも変に重くくどく描かずに見せる。

 

多分なんですけど、監督は二人も女優さんが醸し出す空気感を大切にしたのかなぁと。

それあっての演出を試みたのかなぁと。

 

変な演出をしなくても宮本さんと愛菜ちゃんだけで画になるんですよね、この映画。

というか余計なことしないから2人が映えるんですよ。

お婆ちゃん相手に恐縮気味のうららも、初めて好きなモノでお話ができることに嬉しすぎてる雪さんも、2人の掛け合いと空気感だけでワクワクできるってすごいことですよ。

 

また劇中でBL漫画「君の事だけみていたい」が挿入されるんですけど、これもほとんどセリフを声に出して聴かせないのが良い。

それをすることで、普段漫画を読んでるような気持ちにさせるんですよね。

 

こうした工夫と2人の女優を信頼することが、この映画の温かくほのぼのとした空気感を生んだのだと思います。

 

 

最後に

うららは雪さんの言葉に押され、同人漫画を描く決意をします。

ただただ教科書やノートに書いていた絵を、一冊の本にして人に売る決心ができたのは、雪さんのためでもあると思うんです。

あんなに嬉しそうな顔で励まされたら「できる」って気持ちになるし、「やってみるか」という気持ちになりますよ。

だからもっと彼女の笑顔が見たいって部分もあったんじゃないかな。

もちろん自分が何をすべきかって気づいたのが大きいと思うんですけどね。

 

 

あとはもう終盤ですよ。

ずっと手が止まってたコメダ優先生が、偶々出会った雪さんからうららが描いた同人誌を購入し読んだことで、色々吹っ切れたから最終回まで描くことができた。

 

そのサイン会で雪さんから「あなたのおかげでお友達が出来ました」と言われる。

こうすることでうららと雪以外の作る側が報われる瞬間もしっかり描くのが素晴らしいんですよ。

 

たまに忘れてしまいがちなんですけど、今こうして趣味を謳歌できてるのは何よりも作った人がいるからなんですよね。

色々好き勝手なこと言ってることが多いんですけど、マジで監督のおかげで友達が増えましたと声を大にして言いたいw

だから感謝しかないんですよ。

あなたが素晴らしい映画を作ってくれたから今の自分が在ると。

 

 

僕ももっと早く映画に出会ってたら、映画を作ろうとか思ったんだろうか。

思ってもないようなことが起きたのだろうか。

きっとうららは、数年後ステキな漫画家になってることを祈りつつ、本作の感想を終わります。

というわけで以上!あざっしたっ!!

満足度☆☆☆☆☆☆☆★★★7/10