スキャンダル
未だに無くなることのない「性差別」。
男女平等と表向きに謳っておきながら、未だに社会は男性優位の状態が続いています。
痴漢の被害に遭えば「された側」にも問題があると言われ、労働環境でヒール付きパンプスを無くそうと運動を起こせば、議論をすり替えられ叩かれ三昧。
女性が何か行動を起こすたびに、どうして叩かれなくてはいけないのだろう。
いつまで女性は「男性」の下にいなければならないのだろう。
今回鑑賞する映画は、TV局の中で圧倒的権力を持つ男によるハラスメントを受けた女性たちが、それに抗おうと勇気を振り絞って告発をした、衝撃の「スキャンダル」。
メディアの世界でもTVを付ければ「女子アナ」が男の横に立っていることもしばしば。
視聴率の良し悪しを彼女たちで決めつけ、男目線で優劣を作り、未だに「女子」ないし「女性」アナウンサーとよばなければならない現状。
いつまで女性はお飾りでなければならないのか。
いつまで女性は「オヤジ」たちの「願望」でなければいけないのか。
どこの世界でもこういう風潮は未だに消えませんが、放送業界でもまだ「男中心社会」という深い根っこがあるんですよね。
と、日本ではこういった昔ながらの発想がありますが、アメリカでは違います。
オンナなめんなよ!な事件があったということで、一体どんな事件だったのか、それをどう映画にしたのか、しかもつい最近の出来事って仕事の速さね!
その顛末を見たく、早速鑑賞してまいりました!
作品情報
アメリカで一番の視聴率を誇る「FOXニュース」のトップを、女性キャスターが告発したという実在のスキャンダルを、3大女優で映画化。
アメリカ保守政治に絶大な影響を与え、トランプ大統領誕生の後押しをしたともされるTV業界の帝王ロジャー・エイルズの圧力やハラスメントはどれだけのものだったのか。
またその被害に遭ったにもかかわらず、全く立場も年齢も違う3人のキャスターが、その権力に悩み、時に孤立しながらも勇気ある戦いを繰り広げていく。
今作で第92回アカデミー賞「メイクアップ&ヘアスタイリング賞」を受賞。
「ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男」で初のオスカーを手にしたカズ・ヒロ【辻一弘】が2度目の受賞を手にし、実在するキャスターたちを彼の魔法で本人そのものに変身させたことでも大きな話題となった。
#Metoo運動よりも1年も前に起きたこの事件は、エイルズの死去や告発したキャスターとTV局との取り決めによる「秘密保持」によって終結したかのように見えたが、このような一大スキャンダルを闇に葬ってはいけないと、制作時の危機的状況にも屈さなかったシャーリーズ・セロンの行動力とプロデュースによって映画化が実現。
未だに様々な業界で起きている「性差別」。
搾取されてばかりの彼女たちが起こした、巨大権力への勇気ある行動と、爽快な逆転劇に、誰もが拍手を送ることだろう。
あらすじ
2016年、アメリカニュース放送局で視聴率NO.1を誇る「FOXニュース」に激震が走った!
クビを言い渡されたベテランキャスターのグレッチェン・カールソン(ニコール・キッドマン)が、TV業界の帝王と崇められるCEOのロジャー・エイルズ(ジョン・リスゴー)を告発したのだ。
騒然とする局内。
看板番組を背負う売れっ子キャスターのメーガン・ケリー(シャーリーズ・セロン)は、自身の成功までの過程を振り返り心中穏やかではなくなっていた。
一方、メインキャスターの座を狙う貪欲な若手のケイラ(マーゴット・ロビー)は、ロジャーに直談判するための機会を得て――。(HPより抜粋)
監督
今作を手がけるのは、ジェイ・ローチ。
彼といえば「オースティン・パワーズ」や「ミート・ザ・ペアレンツ」が有名ですが、今回こういう骨太な女性活劇を手掛けたことってない気がします。
といっても全作観てないのでなんともですがw
今回の製作に関してはプロデューサーを務めたシャーリーズ・セロンの力が大きく動いたことが成功の要因とされているそうですが、監督はそんな彼女を称賛しています。
そのひとつとして、製作予定の映画会社がクランクイン前にキャンセルをしたことで、製作が難航してしまうトラブルが発生。
しかしセロンはかつて自分が出演した作品のスタジオから、一部だった出資金を全額出資にしてもらえるよう話を付けたらしく、売れっこ俳優のスケジュールをずらすことなく撮影に臨めたんだとか。
さすが姐さんですね!
彼女の意志を汲んだであろう監督が、どのような作品に仕上げたのか。
非常に楽しみです。
監督に関してはこちらをどうぞ。
キャスト
FOXニュースの看板キャスター、メーガン・ケリーを演じるのはシャーリーズ・セロン。
はい、どっちがセロン姐さん?てくらい、顔が違うんですけど!!
正解は左がカズ・ヒロさんの特殊メイクによって大変身したセロン姐さんで、右がモデルとなったケリーさん。
職人の技術ってほんとすげえなぁ。
今作のプロデュースにも携わり、今作で第92回アカデミー賞主演女優賞にノミネートした彼女ですが、2020年始まって、彼女の作品3作目ですよ?早くないすか?
ちなみにどれかっていうと、これね。
はい、今作入れて彼女、全て製作総指揮に関わってます。
で、自分も出演してるんだけど、どれも全然違うセロン姐さんを拝めます。
評価は置いといて、40代半ばを迎えても新しい自分を構築し、さらには作品を通じて「女性」の地位向上だったり多面性だったり皮肉だったりってのを、セルフプロデュースしながら見せるんですから逞しいもんです。
ホント僕も爪の垢を煎じて飲みたいくらいです。
途中でも書きましたが今作は、表側も裏側も彼女の力無しでは成功できなかった作品。
「モンスター」、「スタンドアップ」に続く主演女優賞ノミネート作品ですから、その演技に魅了されたいと思います。
他のキャストはこんな感じ。
告発するキャスター、グレッチェン・カールソン役に、「コールドマウンテン」、「聖なる鹿殺し」のニコール・キッドマン。
新人キャスター、ケイラ・ポシピル役に、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」、「ハーレイ・クインの華麗なる覚醒/BIRTH OF PRAY」が公開予定のマーゴット・ロビー。
ケイラの同僚ジェス・カー役に、「ゴーストバスターズ」、「イエスタデイ」のケイト・マッキノン。
CEOロジャー・エイルズ役に、「愛と追憶の日々」、「猿の惑星:創世記(ジェネシス)」のジョン・リスゴーなどが出演します。
権力を持つ男が支配する放送局の中で、圧倒的不利の状況である女性3人が、一体どんな戦いを繰り広げるのか。
単純ではありますが、こういう弱者が強者に立ち向かうお話っていつの時代もいいもんですよね。
それだけで終わらせてはいけない内容だとは思いますが…
ここから鑑賞後の感想です!!
感想
こりゃあなかなかのセクハラオンパレードでしたな。
私も肝に銘じたいと思います・・・。
以下、ネタバレします。
どうしてここまで語らせるのか。
次期大統領選を目前に控えた保守派指示のFOXニュース内で起きた、一連のセクハラ内部告発騒動の顛末を、告発前に起きたトランプとトップアンカーとの騒動を前半に置き、ようやく動き出した中盤から、それぞれ違う立場や思惑、境遇などが交錯し、声が大きくなるにつれて巨大な岩を動かしていく決心を固めた3人のキャスターの姿を、第4の壁突破でのユニーク溢れる内部構造の説明や、トランプとの激しいバトルで見えてくる女性蔑視の不愉快さ、それとは逆に権力に忠誠であるからこそ授かったポストという人たちもいる、一筋縄ではいかない内部の人間らによる葛藤も垣間見えた、今後語り続けるべき案件を、包み隠さず描いた問題作でございました。
率直な感想から入りますが、題材としては今描かれるべき内容であったわけですが、映画的に果たしてこれが上手い出来かと言われると、難しい作品だったなぁというのが僕の大まかな感想です。
冒頭メーガンによるFOXニュース社がどういうシステムでどういう構造でどういう呼び名があってという説明を、まるでニュース原稿を読むかのような速さでまくし立て、さらにはそこで権力を誇示してい座っている古だぬきことロジャーがどういう人物かというのもサラッと説明する。
事前にHPでどういう人物がいるのかをなんとなく把握していた身としては、この辺はすらすら入ってきたモノの、何の情報も得ずに見に行った人にとってはなかなか入り辛い冒頭10分間だったように思えます。
毎回報道や政治、事件を扱ったような映画って、とにかく説明が多い。
今回の作品に関して言えば、きっとそこまで内容を把握していない、または普通の人が知らないことを先に説明しておくことで、その後の進行をスムーズにできる利点があるから、こういう演出になったと僕は考えてるんですが、正直言うと別にFOXニュースがどういう放送局なのかとか、誰がどういう人物でとか、ここまで過多に説明する必要がったのかと。
これは映画を鑑賞する以前に、我々が作品に対してどういう経緯があってどういう事件であったのかを事前に調べなければならない、寧ろこれくらいのこと知っていて当然だろう、というか劇中で皆が分からないことがあっても無視して進めちゃえばいいじゃん、見終わった後あれってどういうこと?くらいの放置プレーでもいいと思うんですよ。
何というかそこまで優しくする必要ある?と。
人間の集中力なんてたかが知れてて、持って1時間程度なのだから、会話やセリフで説明調にして物語を語るよりも、記憶としては視覚の方が多く記憶するわけだから、そういう演出を今作はもっと生かすべきだったのかなと。
もちろんエレベーターで物語を動かす3人がようやくそろってけん制し合う映像が流れますが、あそこ凄くよくて、1年間トランプのヤジによって悩まされてきて、しかも誰も自分を擁護してくれる味方がいないことにいら立っているメーガンがいて、ロジャーに直接会ったことでセクハラの被害に遭ってしまいこの放送局の現実をようやく把握したか弱き乙女ケイラがいて、反撃ののろしを今か今かと待ちわびながら、静かに激しく震えているグレッチェンがいて、あの距離感といい目くばせといい、まだこの時点ではそこまでの面識がないんだけどライバルであること、ライバルであったことみたいな野心的な部分、それ以上にまだ誰も本心を言えない状態であることがあの狭い個室の中であって、そういう「視覚」だから活かせる、演者の心境を考察できる楽しさってのを、もっと入れるべきだったのでは?と。
あくまで僕の映画の見方を論じただけの話ですが、これだけ情報量の多くなってしまう作品こそ、いかにして抑えて観衆に伝えさせるかを、製作側は考えてほしいなぁとは思っちゃうんですよね。
被害者の心加害者知らず。
そもそもこのFOXニュース、共和党支持のガチガチの保守派で、視聴者もガチガチの保守派でマッチョイズムなおじいちゃんたちで、俺たちがアメリカを作ったんだ!と思ってる奴らで、トランプやロジャーのように「弱いモノに悪口を言うことはいじめではなく、強い者が立場を知る喜びだ」みたいなことを好む奴らなんですね(全員がそんなことないはずですがw)。
そんな保守派支持層のためのニュースを24時間やってるわけですから、リベラルなことを言っちまうものなら反感を買うのは当たり前なのであります。
しかし報道は常に公平とバランスであることを、劇中でケイラが語るように、メーガンは大統領という国のリーダーになるからには相手を罵ってばかりの悪口いてばかりの罵倒してばかりのような人は果たしてふさわしいのか?という問いを、当時大統領候補だったトランプに言い放つわけです。
女に対して、メス豚だとかブスとか、そういう人が果たして大統領に相応しいのか?と。
そしたらトランプゴキゲン斜めの1日15ツイートもしてしまうほどのメーガン大バッシング。
支持者もメーガンを見つけるたびにトランプ最高!と口撃し、気づけばSNSはメーガンを生理で血まみれと精神的に攻撃を仕掛けるわけです。
しかもロジャーにこのことを相談しても誰も味方になってくれない、寧ろ休めと。
これが1年もメーガンに襲いかかってくるんですから、言われてる側は気が気じゃないです。
夫も子供もいるし、自分を支えてくれるスタッフだっている。いつ何時過激派のような支持者が狙ってくるかもわからない。
権力者の発言てのはそれだけ影響力のある言葉だってのを肌で感じる序盤だったんですよね。
この完全アウェイな状態の中でも決して涙を見せず戦ってきたメーガンでしたが、結局愛する人たちを守るために終結の決断をせざるを得ないところまで持っていかれます。
再び訪れたトランプのインタビュー、あれだけの言葉をお浴びせておきながら、トランプは「そうかすまん」で片づけ、しかもメーガンも了承し、この戦いを終わらせました。きっとかなりの屈辱だったことでしょう。
このトランプとのやり取りが最後に活かされてくる流れになっていて、この一大スキャンダルがまだ終わってないように示唆する組み立てになってるんですよね。
そして中盤3人がエレベーターに入ってようやく本筋へ。
ここまでロジャーという人間がどれだけのセクハラパワハラ野郎かってのを十分に理解してましたが、とんでもない。
相当厄介なわがまま頑固じじいでしたね。
まぁセクハラで告発されても動じないのはわかっていたとして、これは政治問題で負けてしまったらお前たちまで屈辱を味わうことになる、みたいな「これは戦争だ」的な発想にどうしてなるのかと。
お前個人を訴えてるのに、なぜ部下をいちいち動かしたり、他の告発者を出さないために口封じてきなことをしたり、しかも盗聴や探偵を雇うなどの徹底した調査も行うのかと。
俺が部下なら超迷惑な話です。
それもこれも権力を使って自分の思うように動かしてきたことが原因で、しかも局をトップにまでさせた実績が余計に拍車をかけているわけですから、聞き分けないわけです。
実際に彼は女性キャスターの脚を見せることがアメリカ親父たちの関心を引きつけることを知り(というかてめえがただの脚フェチw)、予想が見事に当たったもんだから、とにかく足のキレイなキャスターしか採用しない。
また個室に呼んで、おれの言いたいコト分かるな?仕事を与えるチャンスをやるんだから忠誠心を見せなさいと、力で弱き者を封じ込めるわけです。
それに関して問い詰められても「おれがセクハラ?いやいやお前たち嫌がってないじゃんw、寧ろ喜んでたじゃんw。欲しがってたじゃんw俺はそういうの察知する能力たかいからね~」だと。
ちげえんだよ!白デブ!
言えねえんだよ!
従うしかない空気にお前がさせたんだよ!
そうでもしねえとここでニュース読ませてもらえないんだよ!それがなんで対等なんだよ!
なんで女ってだけで性を消費しなきゃならねえんだよ!
体でしか見てねんだよ!
能力で評価しろよ!
てかお前糖尿病なのになんでドーナツ食ってんだよ!と。
まぁ腹の立つこと腹の立つこと。
しかも告発されていても平気でケイラを呼びつけて性処理させてるわけですから、どういう神経してんだこいつはと。
まぁ絶対自分に従うはずだと先読みしてたんでしょうけど。
そこまでわかっておきながら、なんで追放されちゃったのかってのは、最後まで見ていただくとして。
で、これ見ていて驚いたことが一つあって。
俺てっきり、セクハラ被害を受けた女性は、その被害を受けた見返りで仕事があるってこと、つまりセクハラという我慢があったから仕事がある、それって自然なことでしょ?というような解釈や考えを持ってる女性が結構いて。
まぁ確かに女の武器は美しさと若さ、みたいな風潮は今でもあるのはわかるし、実際にそれで今の自分があって感謝しているってのも分かりますよ。
でもさ、何で女はそういうことを男からされないとポスト付けないわけよ?
同じ人間で同じ能力があるのに、なぜ男と同じような扱いをされないの?と。
で、こういう場所や権力者にしがみ付いてまで欲しい仕事って、そんなに凄いモノなの?と。
だから最後のケイラの姿勢は震えましたし、グレッチェンのように立ち上がるべきだし、メーガンのように賢く立ち回ってもいいし、ロジャーのような奴をどんどん葬り去るべきだと思うわけですよ。
これ自分の話ですけど、うちの職場でも女性スタッフがいても下ネタって飛び交うようなところなんです。
俺が先導して言ってると思うじゃないですか。女性たちも結構言うんですよ。逆に俺がたじろぐようなことを向こうが言ってくるときもあるんです。
で、まぁ人笑いふた笑い起きるわけです。
だから俺も調子乗ってしまうんです。
果たしてこの会話で誰か傷ついてやしないだろうかと、今回見て改めて思ったんです。
あ、この子は大丈夫なんだ、こういうこと言っても、って判断がこの先大きな傷を生むんじゃないかと。
加害者は被害者から、加害者というバッジを付けられないと気づかないんですよね。
あ、俺加害してたんだと。
それならまだいいかもしれないけど、開き直るバカもいるわけですよ、ロジャーのように。
なんでこれくらいの事で傷ついてるんだ、ただのジョークじゃないか。
被害者の気持ちになってモノが言えないんですよ。
イジメもそう、事件沙汰もそう。
誰かに言われないと気づかないし、身動き取れなくならないと自覚しない。
この物語はあくまで放送局内で起きたスキャンダルですが、どこの環境でも未だ起こり得る案件。
日本でもアイドルがそうだったし、ジャーナリストのことだってそう。
なぜ女性が追いやられることになってしまうのか、一般人から攻撃されなければならないのか、僕は未だに理解できない。
正直映画って、やっぱり消費されて終わることの方が多い。
でもこの映画は、まだ消費で済ませてはいけない作品だと思います。
最後に
作品としては及第点くらいだったとは思いますが、やはり題材の鋭さで上回った作品だったと思います。
3大女優の共演ていうのもやはり見ていて画になっていましたし、3人それぞれの悩みがしっかり最後纏まっていく、別に仲間ではないけど気持ちを共有できる、キャスターの椅子は一つしかないから争うこともしばしばだけど、こういう時は味方になれる、そんな映画だったかなと。
しかしこの映画、疲れます…。
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10