グッド・ライアー 偽りのゲーム
2020年に入ってから、良質なミステリー作品が連発なんですよ。
「マザーレス・ブルックリン」に、「9人の翻訳家」、そして「ナイブズアウト」。
どれも僕は高い満足度を出してるんですが、これは果たしてどうなんだろうと興味津々なのが今回鑑賞する「グッドライアー」。
明らかにおじいちゃんとおばあちゃんですけど、見てくださいよ、ポスター。
このいかにも紳士なおめかしした姿に、気品あふれるマダムの装い。
どうみたってボケた2人じゃありませんし(失礼!)、ものすごく頭良さそうな雰囲気。
一応、キャッチコピーも「オトナの騙しあい」ってことなんで、秘密や嘘を巧みに使っての駆け引き、心理戦を大いに描いてくのでしょう。
これまで詐欺師がどうダマすのかみたいな映画や、見てるこっちが騙された!みたいな映画は数多く存在しますが、これはそういうテイストの作品ではない気がします。(あ、ライアーゲームなんてのがあったな…)
詐欺師が資産家に近づいて騙そうとしたら、実は資産家も騙そうとしていた、って話だと思うので。
でなければ大人の騙しあい、なんてキャッチコピーつけないですもんね。
・・・と、いつもながら悪い癖で映画を先読みしてしまいましたが、果たしてどんな展開になっていくのでしょうか。
仮にこの読みが当たっていたとしても、きっと二人のクレバーな駆け引きで楽しめるはず。
というわけで早速鑑賞してまいりました!
作品情報
「美女と野獣」や「グレイテスト・ショーマン」、「シカゴ」など、数々のミュージカル映画を手掛けた監督が仕掛ける最新作は、「オトナの騙しあい」。
身分を偽って相手の懐に忍び込み信頼を得たのち、隙を狙って財産を根こそぎかっさらっていく、そんな手口でたくさんの相手を騙してきたベテラン詐欺師が、夫に先立たれ悲しみに暮れる女資産家を狙って近づくも、一筋縄ではいかない展開へと進んでいく、大人の良質なミステリー。
暴かれていくのは、人間誰しも持つとされる秘密と嘘。
偽りにだらけの人生の奥底にある真実とは。
あらすじ
夫を亡くした資産家のベティ(ヘレン・ミレン)は、インターネットの出会い系サイトを通じてロイ(イアン・マッケラン)と知り合う。
ロイはベテランの詐欺師で、ベティの全財産をだまし取ろうと策を練っていた。
だが、世間知らずのベティは自分の財産がねらわれていることに気付かず、しだいにロイを信頼し始める。
やがて単純な詐欺だったはずのシナリオは、思いがけない展開を見せていく。(Movie Walkerより抜粋)
監督
今作を手掛けるのは、ビル・コンドン。
ディズニーアニメの代表作というプレッシャーを見事はねのけ、興収、評価共に大成功をおさめた「美女と野獣」、日本でも一大ムーブメントを巻き起こした「グレイテスト・ショーマン」(脚本として)、他にも「ドリームガールズ」や「シカゴ」など、数々のミュージカル映画を手掛けてきた名匠だってのは、ご存知の方も多いかと思いますが、ミュージカルのような華やかで派手な作風とは真逆の作品もやるんですよね。
それこそ今作の主人公を演じたイアン・マッケランとは、「Mrホームズ/名探偵最後の事件」なんてのも作ったほど。
2人の重鎮をどう料理したのか見物でございます。
彼に関してはこちらをどうぞ。
キャスト
冷徹な詐欺師、ロイを演じるのは、イアン・マッケラン。
もう80歳だそうです。
お元気そうで何より。
僕の中では彼はロードオブザリングのガンダルフよりも、X-MENのマグニート―の方を優先してしまうんですが、そんなキャラモノよりもこういう役でこそ本領を発揮してくれる方だと思っております。
それも先日「キャッツ」を鑑賞した時に、なぜ彼は猫の格好をして歌なんて歌ってるんだろう…と思ってしまったからでw
今作では元ギャングの詐欺師なようなので、結構目がぎらついてたりするんですよね。
彼の表情って結構目が怖いなぁって思うときが何度かあったので、今作でその表情を大いに見せてくれることでしょう。
彼に関してはこちらをどうぞ。
他のキャストはこんな感じ。
夫を亡くした資産家ベティ役に、「RED」、「クイーン」、「ワイルドスピード」シリーズの、ヘレン・ミレン。
スティーヴン役に、TVドラマ「ビーイング・ヒューマン」、「パレードへようこそ」のラッセル・トーヴィー。
ロイの相棒、ヴィンセント役に、「ダウントン・アビー」のカーソン役でお馴染み、ジム・カーターなどが出演します。
これまさか資産家も元々詐欺師だったとかっていうオチ…じゃないよなぁ…。
もっとひねりの効いたオチ待ってます!
ここから鑑賞後の感想です!!
感想
熟成した大人の騙しあいや駆け引き、そんなコンゲームモノだと思ったら大間違い!
深い悲しみが詰まった復讐劇でございました。
以下、ネタバレします。
嘘には嘘で重ねていくしかない
人を騙して金銭を根こそぎ奪うベテラン詐欺師が、初心で優しい金持ちのシングルマダムに近づき、いつも通りの練りに練った計画で詐欺を企てようとする今作。
基本的にはロイがベティに近づくストーリーラインと同時に、ロイの本当の姿として「共同出資」をネタにした詐欺を働くエピソードが同時進行で進んでいく。
そしてロイの視点を中心に、どうやってベティを口説き落とし資産を根こそぎ手に入れるのかを描いていく。
そのため宣伝や予告の中で隠された「ベティの策略」のようなものは最後の最後までわからないような展開になっていました。
冒頭は、出会い系サイトか何かでターゲットを探すロイに対し、悲しみを埋めるための友達を探すベティ。
ロイは喫煙者なのに非喫煙にマークし、ベティは飲酒するのに飲酒しないにマークするといういきなりの嘘。
ファーストタッチは、実は本名でないんです、というお互いの「小さな嘘」を明かすことから物語は始まっていきます。
この「小さな嘘」を互いが明かすという出発点は、これからきっと想像もつかない騙しあいが繰り広げられるのだろう、と想像させるものでした。
そのうちどんどん「嘘」の規模が大きくなっていき、終いにはどちらも共倒れ、もしくは壮絶な勝利をおさめるような、痛快なコンゲームなのだろうと。
そしたらとんでもなかった…
一件英国紳士のような装いで、時にクールに、時にウィットにダマしを企てていくロイなのかと思ったら、実は嘘に嘘を塗り固めて「新たな自分」を構築しようと人生を歩んでいた事実や、見た目とは大違いな残酷なお仕置き、金への執着心、そして殺人まで犯してしまうほどの極悪ぶりを見せられる。
またベティにも壮絶な過去があり、終盤で一気にベティの「隠された過去」が明らかになっていく。
こじゃれたイギリス人老人たちの優雅さはどんどん薄れていき、最後にはなかなかの復讐劇へと展開されていく、重々しいお話でしたね。
人間は人生の中でどれだけ嘘と秘密を抱えながら生きていくのかということを示すと同時に、そうまでしても生きていかなければならない複雑な事情など、歳を重ねていくことで「嘘と秘密」はさらに深く根付いてしまう、曲がりくねった道を歩んでしまうモノなんだなぁと思わされた作品でした。
よく聞く語り文句ですが、「嘘をついたら、その嘘を隠すためにさらに嘘をつく」、ってのがあると思います。
例えば僕が冷蔵庫にあった妹のケーキを食べてしまい、一体誰が食べてしまったのか、と犯人探しを始めるみたいなケースがあったとして、「この前自分で食べてたじゃん」とか、お父さんが食べてたよとか、そもそもなかったとか、新しいケーキを入れておくとか、などはぐらかしたり隠蔽したりすることが、これにあたるのかと思うんです。
ロイ自身も身分を隠すために、息子の存在を語ったり膝が悪いふりをして近づく行為をしていましたが、それ以上にロイという名前や出生も違うということが明かされます。
本来の自分を偽って生きる、という嘘が彼をどんどん深みに追い込んでいたんですよね。
優しい嘘、なんてパターンもありますが、それは他者へ向けてのもので、自分を偽るための嘘は、何も得なんてなくて、自分の首を絞めるだけの行為なんだなぁってのを、ロイの末路を見て思いました。
世知辛い事情があったとはいえ、どこかで嘘を清算するようなことはできなかったのか、詐欺師として生きていく選択肢しかなかったのか。
そんなことも思わされましたね。
イングロリアスバスターズ
ロイとベティは2回目のデートで映画館へ行き、戦争映画を見てるんですけど、一体何の映画だろう?どうせ今作のために作ったオリジナルの作品なんだろう、そう思っていたら、なんとタラちゃんの傑作「イングロリアス・バスターズ」でした。
ドイツナチスの指導者を殺害するために、家族を皆殺しにされたユダヤ系のフランス人女性と、秘密部隊を率いてナチス討伐を目論む男の2人の主人公が、やがて交差していき壮大なクライマックスを迎えるというお話。
この中で史実と思いっきり違う結末を迎えるんですが、ロイとベティは今作をみて「今の若い人はこれを事実を受け止めてしまう」みたいなやり取りをします。
もちろん「嘘」を言い合う映画ですので、この映画をチョイスして二人が語り合う描写はうまいんですが、ベティってロイをすぐ信じてしまう設定なんですね。
で、逆に孫であるスティーヴンは疑り深い設定になっているんですよ。
この序盤のシーンを見て思ったのは、実は歳を召した人の方がなんでもすぐ信じちゃうんじゃないかって。
若い人はちゃんと問題に疑問を感じて調べたり考証したりするよね、って。
そういう皮肉じみたものがここでにじみ出てるなぁ、なんて思ったんですが、話が進むにつれてなぜ「イングロリアスバスターズ」を取り扱ったかがわかっていくんですよね。
実は二人とも「第二次世界大戦」によって人生を翻弄された、という過去がありました。
ロイは諜報員としてベルリンにおり、ベティはベルリンに住み、戦争のために作られた工場を経営する父の甲斐あって優雅に暮らしていました。
終盤ではもっと意外な事実と二人の接点が明かされますが、そこへ向かうための伏線のようなものとして、この史実を捻じ曲げた「イングロリアスバスターズ」が用いられたのかもしれません。
また舞台設定も2009年とあったように、このイングロリアスバスターズも2009年製作。
まさかこれをやるためにその年にしたのか?ってのは深読みですかね。
最後に
これ以上書くと核心に触れてしまうのでやめときますが、ぶっちゃけこんな物語だなんて誰が予想できるか!ってほど、ラストの種明かしはびっくりでした。
そりゃあほとんどロイの悪だくみしか描いてないから、どうやってロイがダマしていって最後にベティにダマされるのだろうってことしか頭になかったんだけど、物語の中でどこにもベティの仕掛けのようなものが描かれてないからわかりっこないよ!って。
怪しい箇所もありましたけど、それがヒントにすらなってないからマジで。
だから最後の回収は今まであまり見たことない展開でやられました、はい。
ホント人って見た目だけじゃわからないし、ロイのように一緒に住んでみても素性が見えないわけだから、人間てどれだけ本性を偽ってんのかね~って。
僕もこうやってブログ書いてる中で少しづつどういう人間かってのを提示してるわkですけど、それでもほんの一部だし側面でしかないし、そもそも一人称を「僕」とか「俺」とか使ってるけど、「男」だって保証はどこにもないし。
とにかく自分を偽ってるのかホントなのかも相手には見えないってことを肝に銘じて生きなきゃいけませんね…って全然違うこと話始めてしまったw
感想に関しては本物です、はい。
あ、終盤ではおじいちゃんとおばあちゃんの取っ組み合いバトルが見れますよ。
どうやら二人がちゃんとやってるようです。
それも含めて見る価値ありですw
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10