BAD LANDS バッドランズ
特殊詐欺。
いわゆる「オレオレ詐欺」や「預貯金詐欺」といった形でだまし取る詐欺の総称だそうです。
最近では「ルフィ」という名で全国的に詐欺をしていた組織グループが有名ですね。
他にも「闇バイト」と募り、若者を中心に「受け子」や「出し子」をさせるという手口も問題になっています。
基本的には暴力団や半グレと呼ばれる集団の収入源として行われてる犯罪だそう。
末端の人間は、引き出す係(出し子)や受け取る係(受け子)などを担当するも、手にした金はほとんど上にかすめ取られる仕組み。
逮捕されるリスクが大きいうえに受け取る金は少ない、しかも組織から身元も抑えられてるため、抜けようとするものならば、「詐欺の犯人」として情報を拡散される恐れがあるゆえに、一度加担すれば抜けることは不可能と言われています。
今回観賞する映画は、そんな特殊詐欺を続ける姉弟が、手にした大金で危険な地逃れそうとする様を描いた物語。
早速観賞してまいりました!!
作品情報
直木賞作家の黒川博行による重厚な傑作小説『勁草』を、『検察側の罪人』や『関ヶ原』 『ヘルドッグス』など、数々の話題作を手掛けてきた原田眞人が監督・脚本を務め、実写映画化。
特殊詐欺を生業とする姉弟が、偶発的な出来事から大金を手にしたことで、警察や巨悪から逃れる姿を描く、予測不可能なクライムサスペンスエンタテインメント。
主人公を女性にするという大胆な脚色を施した本作は、主人公ネリを演じる安藤サクラ(「万引き家族」、「怪物」)が見せる妖艶でありながらタフな姿と、弟ジョーを演じる山田涼介(「大怪獣のあとしまつ」、「鋼の錬金術師」)が見せる健気な可愛らしさと冷血さのコントラストによって、ただのクライムサスペンスでは終わらない、分厚さのあるドラマとなった。
また、生瀬勝久や江口のりこといった名わき役や、吉原光夫や大場泰正といった原田組常連の俳優陣、宇崎竜童や天童よしみといった意外性のあるキャスト人など、幅広い演者らが、特殊詐欺グループ特有の様々な役職や、彼らを執拗に追う警察勢を、強めの関西弁でまくしたてながら熱演。
まさに関西弁ノワールという名にふさわしい作品となった。
原作のタイトル「勁草」とは、風などに負けない強い草。また、節操・思想の堅固な人のたとえ。とのこと。
持たざる者が持つ者から掠め取らなければ生きていけない二人は、どんな勁草の様を見せるのか。
あらすじ
「名簿屋」の高城(生瀬勝久)に雇われているネリ(安藤サクラ)は、オレオレ詐欺の受け子を手配する役割“三塁コーチ”を担っている。
一方、刑務所から出所したばかりのジョー(山田涼介)は、高城に仕事を紹介してもらおうと姉のネリを頼りにやってきた。
ジョーを高城に紹介し、2人で仕事をこなすようになるネリとジョーだったが、ある夜、思いがけず億を超える大金を手にしたことで命をねらわれてしまう。(Movie Walkerより抜粋)
登場人物紹介
- 橋岡煉梨(ネリ)…(安藤サクラ)…特殊詐欺を生業とし、その成果によって弟のジョーとともに生き延びてきた。特殊詐欺グループの受け子のリーダー格であり、警察の張り込みにも目ざとく気付く。一方、自身も生活をする「ふれあい荘」の住人たちを束ねており、住民たちからの人望も厚い。体調不良の者が出ると病院へ連れて行くなど面倒見の良い一面も。
- 矢代穣(ジョー)…(山田涼介)…ネリの弟。黒い革ジャンがトレードマーク。刑務所から出所してきたばかりで他に頼る宛が無く、高城に仕事を紹介してもらおうと姉のネリを頼りにやってくる。特殊詐欺に手を染めることでしか生きていくことの出来ない“危うさ”を持つ一方で、血が繋がらないながらも唯一の家族であるネリを心の拠り所にし、守ろうとする側面も持っている。
- 曼荼羅(まんだら)(宇崎竜童)…「ふれあい荘」に住む元ヤクザで、幼いころからネリのことをよく知る存在。
- 高城(生瀬勝久)…表向きはNPO法人「大阪ふれあい事業推進協議会」の理事長。裏の顔は特殊詐欺グループの名簿屋。
- 佐竹(吉原光夫)…大阪府警で特殊詐欺の捜査をする捜査一課の刑事。
- 日野(江口のりこ)…大阪府警にある特殊詐欺合同特別捜査班の班長。
- 新井ママ(天童よしみ)…ネリも加担する特殊詐欺の道具屋であり、「亥誠組」とのつながりを持つ。
- 教授(大場泰正)…博識ながら「ふれあい荘」に住み特殊詐欺の受け子をして生きる通称“教授”。
- 胡屋(淵上泰史)…グローバル・マクロ投資家の大物で、総資産500億ドルにものぼるゴヤ・コーポレーションの会長。
- 林田(サリngROCK)…裏賭場の帳付、さらに裏社会での黒い仕事を仲介する謎多き女。(以上Fassion Pressより抜粋)
長尺に加え早口で展開される恐れのある原田監督作品。
ぶっちゃけ全部理解せずとも、あのリズムとテンポが心地よかったりするんですよね。
そういう「気楽」な感じで楽しもうと思いますw
ここから観賞後の感想です!!
感想
#映画バッドランズ 観賞。
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) September 29, 2023
持たざる者は持つ者から掠め取って生きていく。血の繋がらない姉弟が仕掛ける下剋上をチャキチャキの関西弁で彩る原田節ノワール。
どこもかしこもピラミッドで、末端は搾取されるだけなんやねー。
いやぁ〜毎回セリフ聞き取るの大変だけど今回はだいぶ聞き取れたw pic.twitter.com/C3iYlHYAbp
血の繋がらない姉弟が大金をかすめ取るまでを描くノワール劇。
不運な人生を歩んできたけどクレバーな姉、その姉の足を引っ張るも愛を貫く弟。
ちゃっかり原田監督ユニバースもあって楽しいエンタメクライムサスペンスでした!
以下、ネタバレします。
綿密な計画を立てる犯罪組織に驚き。
テンポが軽快であるが故に演者のセリフが早口且つ聞き取りにくいでお馴染みの原田監督。
今回も半分以上が聞き取れない物語だったわけですが、意外にもそれは序盤までだったのは今回非常に助かりました。
その序盤、タイトルロールが出るまでに描かれる犯罪の手口の一部始終を見せるエピソードは、綿密に計画された手口や組織に属する者たちの役割、受け子やネリ演じる三塁コーチと呼ばれる者たちの危険性、さらにはそれを陰で犯罪を凝視する警察らの行動すべてが生々しいものでした。
バー「BAD LANDS」で海外出張から帰国したてのネリは、名簿屋でありながら上司にあたる高城と今回の計画を聞き危険を察知。
下流老人らが住むアパート「ふれあい荘」に住む住人「教授」を受け子として使い、銀行から引き出した金520万円を老婦人から受け取ろうとするが、周囲を警戒するネリのアンテナは凄まじく、一瞬で「警察にマークされてる」ことに気付く。
その間、高木は車で老婦人を見守ったり、掛け子グループに指示を出したりと、ネリの裏で忙しく動く。
教授も教授でしっかり記憶した今回の詐欺の内容を暗唱。
皆が皆それぞれの役割を果たしたうえで成り立つ犯罪であることを、凄まじいテンポで見せていくのであります。
それもそのはず、今回の作戦がもし警察による罠だとしたら、受け子やネリ扮する三塁コーチら末端が一気に捕まる恐れもあり、中間管理職的立場のネリとしては自分より下の係りの者を警察に引っ張られたくない、ましてや自分も捕まる可能性が高いわけですから、常に警戒心を怠るわけにはいかないのであります。
しかしまぁよく見てるなと。
銀行の金をちゃんと引き出したかを見張る係がいないため、ネリがそれを担うことになるわけですが、ちゃんと銀行に要る人たちの特徴を記憶しており、そこにいた人物を再び見かけたことで今回「警察が張ってる」ことに気付くという把握能力には脱帽でした。
警察も警察で、今回かけた罠にかからなかったものの、様々な防犯カメラやそこで捉えたネリの特徴をしっかり推理して炙り出していく仕事ぶりは見事。
原田監督作品て、こういう人たちの所作や仕事ぶりを描くの上手ですよね。
そこにチャキチャキの関西弁を使って、笑わせようとしてるのかそう出ないのかギリギリのラインで攻めたセリフでポップに描いてくれるから見ていて飽きないんですよ。
何喋ってるかわからないことが多いけどw
こうした序盤の特殊詐欺グループの犯行の一部始終を見せた後、本編は少しずつ姉と弟のドラマへと進行していくのであります。
弟をほっとけない、姉を守りたい。
物語は、刑務所から出所して暴れまわっているネリの血の繋がらない弟ジョーを、自分と同じグループに入れるエピソードへ移ります。
余りに暴走するので、ネリとしては自分の監視下に置きたいのでしょう。
高城の前で履歴書を書くジョーでしたが、全てひらがなだったり、職歴に犯罪歴を書くなど中々のやべえ奴なのが窺えます。
ジョーはネリと違ってそこまで計画性もなく、さらには上に平気で盾突くような性格。
かつて人を殺してムショに入っていたくらいですから、相当なサイコパスなんでしょう。
発言だったり行動具合がそれを掻き立てますが、姉には逆らえないといったカワイイ弟具合も見せるもんだから、これまたほっとけない。
詐欺に失敗したことや、掛け子グループによる新たなストーリー待ちということもあって、物語からは姿を消し、舞台はネリとジョーの物語へとシフト。
かつての仲間と共にひっそり催される賭場に変わります。
ここで荒稼ぎしたいジョーでしたが、彼の金遣いの荒さを心配したネリは同行することに。
ここで面白いのは賭場の舞台が、「かつて新選組の映画で使われた場所」という設定。
そうです、原田監督の「燃えよ剣」を想像してしまうような設定なんですよね。
しかもジョー演じる山田涼介が到着するや否や「いやぁ~なんか懐かしいな」というではありませんか。
てことは、ここは池田屋のセット跡なのでは?と思いたくなる、遊び心溢れた設定でしたね。
ここでは、金髪の女性が仕切る賭場でチンチロが行われており、皆が二つ折りにして束ねられた札で不法に賭け事をしておりました。
ネリがいる間ジョーのツキは絶好調でしたが、ふれあい荘の住人曼荼羅が病院から抜け出して暴れまわっているという連絡により離れると、ジョーのツキは一気に下降路線。
気が付けば250万円の借金を作っていました。
借金返済のために用意された仕事は、とある裁判を担当した判事を射殺すること。
廃墟と化した温泉宿にたどり着いたジョーと仲間たちは、渡された拳銃を脅えながら発砲します。
引き金を引けないジョーの前に立ちはだかったのは、何と特別出演の岡田准一。
「ヘルドッグス」や「燃えよ剣」、「関ヶ原」など、監督の過去作で主演した縁、または山田君のバーターとして今回出演が叶ったのだと思いますが、パッと見はヘルドッグスの時のような凄みのあるチンピラ。
お互い長生きしようぜと言って、武器を懐に収めるような素振りでジョーはその場から離れるというシーンでした。
こうした原田作品ユニバースで遊んだ後、物語はジョーと仲間らによる高城襲撃へと移っていきます。
なぜジョーは高城を襲撃しようとしたのか。
単純に名簿屋として大金を持っているから奪おうとしたのだと思いますが、僕としては高城から逃れることのできないネリを助けたいという思いもあったように感じます。
過去の話をしたくないネリが、何故高城の仕事に関わるのか。
弟なりに考えた故の行動だったのかもしれません。
2人は壮絶な過去を持っていることもあって、血は繋がらずとも苦しみに耐えながら生きてきた末の絆がしっかり刻まれているのが、本作での掛け合いから感じるのであります。
そんな弟の行動によって、ネリとジョーは高城を殺し、持っていた資産や口座預金を現金に換える作戦をたて姿を消そうとするのですが、そう簡単にはいかないの映画。
高城と連絡が取れなければどういう対処をするか、彼と繋がっている者らが続々と押し寄せるのです。
クズなりに生きる術
本作は、犯罪を扱う物語でありながら、弟を想う姉と姉を想う弟の絆を描くと同時に、持たざる者同士が助け合って生き抜いていく姿を描いている物語でした。
そもそもどの世界や組織でもピラミッドのような縮図があり、事犯罪組織においては上は上で指示をするだけで、末端は末端として労働したり危険を顧みず行動して搾り取られていくだけです。
実際特殊詐欺も高城の指示によって皆が色々動くわけですが、取り分は回収した金額の1割程度。ネリの場合そこから受け子らに金を渡すという仕組みで、自分の手元にはわずかしかありません。
そんな割に合わない仕事は、そう簡単には抜け出せない理由が彼らにはあるのであります。
それが下流老人と呼ばれたふれあい荘の住人であり、普通の仕事に就けない者たちはそうした犯罪に手を染めることしかできないということを本作は突きつけるのであります。
また高城に関して言うと、彼の肩書は元病院の院長だったことが判明しますが、患者に大した措置もせず適当に処置して高額な入院費用を払わせたり、国の制度によっていろいろな部分を免除してもらったり費用を助成してもらったりして荒稼ぎしていた人物であったことが明かされます。
さらに面白いのはその病院を後方支援していた会に総理の夫人が関与していたこともあって、中々表立って捜査できない面もあり、バックについてるのが大物過ぎて逮捕できない強欲野郎だったわけです。
また、東京パートでは、かつてネリが秘書として働いてた投資家が、ネリの所在地を様々なネットワークを駆使して探している姿が映ります。
TV局のお偉いさんと会食をしながら、リアリティーショーをもっと過激にやろうという案を提案していました。
コンプライアンス的にNGなのが見え見えの内容でしたが、結局スポンサーには逆らえないという構図をここでぶち込んでくる風刺をしっかり見せています。
さらには彼はDV気質で支配欲の強い男でした。
秘書をフルボッコにしたり口で白と命令したりして秘書に従わせる姿を映すことで、かつてネリも被害を受けたことが窺える映像でした。
金も力も持つ者が、持たざる者からあらゆるものを搾取していいのかという問いかけを見せつつ、持たざる者が持つ者からかすめ取る犯罪組織もまたそうした構図になっているというのが本作の背景にあったのではないでしょうか。
そんな息苦しい日々を必死で生きる姉弟の姿を見て、我々は何を思うか、ですよね。
最後に
勁草のようにしぶくと生きるネリの姿を描いた本作。
父親に性奴隷として扱われ、ゴヤに愛という名のDVを受け、たどり着いた場所は別の父親からの搾取とした犯罪。
そんな辛い日々を送りながらも、生きるのに精いっぱいな老人たちや、ちょっと目を離すと暴れてしまう弟を支えながら生きるネリですが、実は彼女もまた老人や弟に支えられながら生き、大金を手にして新たな人生を送れたのではないでしょうか。
どのキャラもセリフの掛け合いからいい味出してるキャラで良かったんですけど、出来る事ならもう少し意味のあるキャラにしてほしかったですね。
特にゴヤはよくわからんw
ネリを捕まえたい一心なのは理解できるとして、もっと執着心出すとか狂った素振りを見せるとか、何とかならなかったかとw
道具屋の天童よしみも「湯道」に続いての演技で、そっちよりも様になってたんだけど、道具屋としての仕事をしてない以上、別に登場しなくてもよかったというか。
あとはもう後半の部分ですよね。
高城を殺してからのネリとジョーの余裕振りが物語のスピードを緩めてしまっているんですよね。
高城と連絡とる必要性の高い人間が近くにいないという判断からくる余裕が、後にピンチを招くという流れになってるのだから、そのピンチをもっと追い込まれるかのようなピンチとして描かないと、せっかくの逆転劇にもかかわらず障害が低く設定されてやしねえかと。
道具屋にバレて、尚且つゴヤも大阪に到着してさぁ大変ていう中で、曼荼羅がピンチを救うみたいな流れの方がスカッとするんですけどね。
原作ではそういうドキドキの展開になってないんだろうか。
せっかくのクライムサスペンスなのだから、もっと劇的に演出しても良かったと思うんですよね。
今回はそこが物足りなかったですが、それ以外は特に不満もなく、いつも通りの原田作品で、尚且つ関西弁のやり取りが楽しい作品でした。
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆☆★★★★6/10