オッペンハイマー
具体的なな解説はこちらをどうぞ。
第98回アカデミー賞にて作品賞を含む7部門を獲得した、クリストファー・ノーラン監督作「オッペンハイマー」。
監督賞の発表では、かつてオスカーに冷遇されながらも、「シンドラーのリスト」で晴れて作品賞の受賞し、オスカーの仲間入りを果たしたスティーブン・スピルバーグ監督がプレゼンターを務めました。
彼と同じ境遇を持ったノーランが受賞した瞬間、そして何よりスピルバーグからオスカー像を受け取った瞬間は、今回の授賞式のハイライトの一つだったように思えます。
かつて監督の名前だけで客を呼べたスピルバーグが、現在「監督の名前で客を呼べる」ノーランへとバトンを渡すかのような、世代交代とも感じ取れる瞬間。
そんなノーランの真骨頂ともいうべき作品が、いよいよ日本で公開となります。
原爆を作った男の物語を、世界唯一の被爆国・日本で公開すること。
ものすごく重いことだと思います。
まずは公開に踏み切ってくれた配給に感謝です。
そのためにも、しっかり目に焼き付けたいと同時に、あくまで「映画」であることを意識しながら、ノーランの真骨頂を見極めたいと思います。
早速観賞してまいりました!!
作品情報
ピューリッツァー賞受賞作「オッペンハイマー」を原作とし、第二次世界大戦下、世界の運命を握った天才科学者オッペンハイマーの栄光と没落の生涯を実話に基づき描いた物語を、「ダークナイト」以降あらゆる映像革命と興行成績をもたらし続けるクリストファー・ノーラン監督が手掛けた。
「原爆の父」と称された物理学者オッペンハイマーが、世界初の原子爆弾の開発に成功するまで、そして激動の時代の波にのまれ苦悩していく姿を通じて、人類にとって国家とは、科学とは、平和とは何かを問いかけながら、五感を刺激する映像で描く。
「誰よりもドラマティックな人生を歩んだ男の脳内に入り、彼の物語を描くことによって、観客のみなさんに彼の人生を追体験してもらいたかった」と語るノーランが初の伝記作品に挑んだ本作には、「TENET テネット」に続く二度目のタッグとなった作曲のルドウィグ・ゴランソン、「インターステラー」以降すべての作品で組んでいる撮影監督のホイテ・ヴァン・ホイテマなど気心知れたスタッフが参加。
また、MAX65ミリと65ミリ・ラージフォーマット・フィルムカメラとを組み合わせたほか、本作のためだけに開発された65ミリカメラ用モノクロフィルムを用い、史上初となるIMAXモノクロ・アナログ撮影を実現させた。
革新的映像による没入感が評判を呼び、世界興行収入10億ドルもの大ヒットとなった本作は、第96回アカデミー賞で、クリストファー・ノーラン初の作品賞、監督賞ほか、主演男優賞(キリアン・マーフィー)、助演男優賞(ロバート・ダウニー・Jr.)、撮影賞(ホイテ・ヴァン・ホイテマ)、編集賞(ジェニファー・レイム)、作曲賞(ルドウィグ・ゴランソン)の最多7部門受賞を果たした。
主演のオッペンハイマーを演じるのは、「バットマンビギンズ」や「インセプション」、「ダンケルク」と、数々のノーラン作品で脇を固めてきたキリアン・マーフィー。天才科学者の苦悩と葛藤を存分に表現した。
他にも、「クワイエット・プレイス」のエミリー・ブラント、「アイアンマン」のロバート・ダウニー.Jr、「AIR/エア」のマット・デイモン、「オリエント急行殺人事件」のケネス・ブラナー、「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」のラミ・マレック、「マンチェスター・バイ・ザ・シー」のケイシー・アフレックなど、豪華出演陣がノーラン作品に集結した。
天才物理学者の栄光と没落を一体どのような映像表現で見せ、我々に何を提示するのか。
あらすじ
第二次世界大戦下、アメリカで立ち上げられた極秘プロジェクト「マンハッタン計画」。
これに参加した J・ロバート・オッペンハイマー(キリアン・マーフィー)は優秀な科学者たちを率いて世界で初となる原子爆弾の開発に成功する。
しかし原爆が実戦で投下されると、その惨状を聞いたオッペンハイマーは深く苦悩するようになる。
冷戦、赤狩り―激動の時代の波に、オッペンハイマーはのまれてゆくのだった―。
世界の運命を握ったオッペンハイマーの栄光と没落、その生涯とは。
今を生きる私たちに、物語は問いかける。(HPより抜粋)
キャラクター紹介
- J・ロバート・オッペンハイマー(キリアン・マーフィー)…アメリカの天才理論物理学者。第二次世界大戦中、「マンハッタン計画」を主導。
- キティ・オッペンハイマー(エミリー・ブラント)…ロバート・オッペンハイマーの妻。生物学者で植物学者。
- レズリー・グローヴス(マット・デイモン)…アメリカ陸軍工兵隊の将校。政府の極秘プロジェクト「マンハッタン計画」を指揮し、オッペンハイマーに白羽の矢を立てる。
- ルイス・ストローズ(ロバート・ダウニー・Jr.)…アメリカ原子力委員会の委員長でアメリカ海軍少将。頑固で野心に満ちた人物で、やがて水爆実験をめぐってオッペンハイマーと対立を深めていく。
- ジーン・タトロック(フローレンス・ピュー)…精神科医で共産党員。オッペンハイマーがカリフォルニア大学バークレー校で物理学の教授をしていた1936年に出会い恋仲になる。
- アーネスト・ローレンス(ジョシュ・ハートネット)…アメリカの核物理学者で発明家。カリフォルニア大学バークレー校の物理学教授でオッペンハイマーの同僚であり友人。
- ボリス・パッシュ(ケイシー・アフレック)…アメリカ陸軍の防諜部将校。
- デヴィッド・L・ヒル(ラミ・マレック)…イタリアの物理学者エンリコ・フェルミの助手。フェルミと共にマンハッタン計画にも参加するが、のちに日本への原爆使用に反対する請願書に署名する。
- ニールス・ボーア(ケネス・ブラナー)…量子論を展開したデンマークの理論物理学者。1922年にノーベル物理学賞を受賞。オッペンハイマーがケンブリッジ大学で出会う心の師。
- フランク・オッペンハイマー(ディラン・アーノルド)…ロバートの弟で、放射線研究のバックグラウンドを持つ素粒子物理学者。マンハッタン計画に参加し、トリニティ実験用の機器の開発に取り組む。
- イジドール・ラビ(デヴィッド・クラムホルツ)…アメリカの物理学者でオッペンハイマーの友人。
- ヴァネヴァー・ブッシュ(マシュー・モディーン)…技師で発明家。軍事目的の科学研究を担った米国科学研究開発局のトップとして、極秘マンハッタン計画の初期段階を率いた。
- ハーコン・シュヴァリエ(ジェファーソン・ホール)…作家、ロマンス語の大学教授。互いが教鞭を取っていたカリフォルニア大学バークレー校にて出会い、オッペンハイマーの近しい友人となる。
- エドワード・テラー(ベニー・サフディ)…理論物理学者。狡猾で気まぐれなマンハッタン計画のオリジナルメンバー。
- ウィリアム・ボーデン(デヴィッド・ダストマルチャン)…連邦議会原子力合同委員会の元事務局長。
- アルベルト・アインシュタイン(トム・コンティ)…ノーベル賞受賞物理学者。オッペンハイマーとはプリンストン高等研究所で同僚だった。
(以上HPより)
上映時間3時間。
多くの登場人物がオッペンハイマーにどう関わり、どう動かすのか。
ダンケルク以降、ノーランから心が離れてしまった俺は、再び彼の虜となるのか。
ここから観賞後の感想です!!
感想
#オッペンハイマー 観賞。
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) March 25, 2024
えーと…
面白くなかったです… pic.twitter.com/731r3sNN6J
彼の栄光と苦悩、そして没落を、ノーラン的ギミックで複雑化し、音楽と映像の驚異的圧力で「映画を見た」「映画で夢中になった」気にさせる、反核映画。
そんなにこねくりまわさないと、映画って作れないんですかノーランさん。
伝記映画くらい、普通に作ってもらえませんか。
以下、ネタバレします。
未来は僕らの手にかかってたりして。
何十万人もの命を一瞬で奪い去った核爆弾や細菌兵器
あれだって最初は 名もない禍学者の純粋で小さな夢からはじまったんじゃないだろうか
そして今また僕らは 僕らだけの幸福のために科学を武器に
生物の命までもコントロールしようとしている
一体どこまでいけばいのだろう
どこに行くというのだろう
一体何ができるだろう
何をすべきなんだろう
これはMr.childrenの「Q」というアルバムに収録されている「Everything is made from a dream」という曲の一節です。
万物は全て夢から作られているという意味のこの曲は、マーチ調のリズミカルなテンポでハイトーンで歌われている、ノリのいい曲なんですが、歌の内容は「夢が持つ素晴らしさと、それだけじゃないよね」という両極端な意味を歌った曲です。
要するに、夢ってよくもなるしわるくもなる、凄く厄介だよね、だからこそ僕らは遥かな未来を歩むために考えなくちゃいけないっていう。
この「オッペンハイマー」という映画を見る前から、僕はこの歌が頭から離れなかったんです。
オッペンハイマー自身も小さな夢から原子爆弾を作ったのではないかと。
世界を破壊してしまうほどの力を生み出すことへの重さと責任が押し寄せる事すら知らずに。
実際映画を見てる最中は、小さな夢、というよりも「自分同じユダヤ人を迫害するナチス」との核開発競争に勝つため、という競争心の方が勝ってるように感じましたが、その最中でも「世界を変えてしまう」可能性があることを、頭の中で理解しているように感じました。
それでも作りたい、作らなければならないという意思が彼を駆り立て、ついに原子爆弾は生まれてしまった。
ただ彼はその先の未来を、大きな罪を背負うことを理解していない。
なぜならば、落とすかどうかは自分の判断ではなく、政府がやること。
その責任は自分には、ない、と思っているから。
どうしてそんな薄情な事を言ってしまうのかっていう彼の性格や、彼を形成したであろう周囲の人たちを群像的に描いたのがこの映画であります。
そしてノーランは、クローズアップ現代などのインタビューで「知識の危うさを伝えたい」みたいなことを言ってました。
その危うさとは、もしかしたら世界中の大気を燃やしてしまうほどの大爆発を起こす可能性を、ニアゼロと断言して原子爆弾を開発していたが、ラストシーンでアインシュタインに「ニアゼロではなくきっと成功していた」と本心を語ることで、オッピーは、あの時点で「世界を破壊する力を生み出す事」をしっかり明確にわかっていながら、それを止めることを考えなかったということ。
原作の原題は「アメリカン・プロメテウス」というタイトルだそうですが、まさにプロメテウスの如く、神から火を盗んだことに対する罰が描かれていく物語で、ラストを見た瞬間、これは「相当罪深いぞ」と思えるラストでした。
また、映画で描かれるオッペンハイマーは「興味のあることへの探求心は豊富だが、それ以外は無関心」みたいな男なんですよね。
アカかもしれないと疑われているのに、盗聴されてるとか車のナンバー調べられてるとか全然気になってないし、それこそストローズを適当にあしらうから反感買って私怨が爆発して聴聞会で審議かけられるまでになったわけですよ。
ジーンが自殺したのだって、彼女がおかしくなってるのに気付くのが遅すぎるわけです。
弟フランクの嫁さんも適当にあしらうし、フランクの息子夫婦にも適当。
とにかく他者に対しての気遣いがなさすぎる。
というか、全ての事象において、「頭ではわかっているのに、事が起きてから思いっきり後悔する」男なんですよ。
なのに研究者からはめっちゃ慕われるというギャップが、また彼の魅力なのかもしれませんが。
そういう男が、ナチスに先を越される前に原子爆弾を成功させなくてはいけないという使命に没頭するあまり、ロスアラモスという自分の箱庭を作ってしまうあまり、外の世界=社会に全く目もくれないからこういうことになると。
ただね、ものすごく変な事言うけど、もし仮にオッペンハイマーがいなければ、ナチスが原子爆弾を作っていたかもしれないわけです。
もしくはあの時点でオッペンハイマーが実験に失敗し、テラーがさらにその上の水爆を作り上げてたら、もっとややこしい世界になっていたかもしれない。
ウルトラセブンのギエロン星獣の回じゃないけども核開発競争や水爆開発競争みたいに「平和維持」とか言う建前で「悲しいマラソン」が続いていたわけですよ。
でもだ、オッペンハイマーが実験に成功してボタンが押されたわけだけど、ようやく自分のしでかしたことに気付き、核の国際管理を促すために尽力したからこそ、次の被爆国が生まれてないわけですよ。
そう考えると、間違ったことを正すような行為をしたことは、世界にとっては、まだ、まだね、大きな救いだったのじゃないかと。
ちゃんと罪と罰を受け入れ、自分を戒めたわけですよ。
それでも彼は許されたと思ってないまま生涯を終え、そんな彼を許したっていうことで胸をなでおろす大国は罰を受けないっていうのは違ぇぞ、って俺らがちゃんと言うべきというか。
変な話さ、「ジュラシックパーク」のウー博士もそうだしさ、よくあるSF映画で「革新的発明をするけど、それによる悪影響」を考えない科学者たちがワンサカいるわけ。
ChatGPTを開発したのはいいよ、確かに便利だ。
でもそれによって一体どんな代償が生まれるのかってのを作った人は考えたのかっていう。
科学の進歩によって俺たちの生活はどんどん便利になっていく一方で、その先の未来に何が待っているのかを見据えないといけないわけ。
俺たちは科学者たちの小さな夢の成功に踊らされてるだけでいいの?って。
そんなことを鑑賞しながら思いました、とさ。
詐欺師ノーラン
僕自身「ダークナイト」で映画に目覚め、新しいヒーロー映画に没頭し、「インセプション」で複雑な構造の世界を圧倒的映像で魅了され、「インターステラー」で五次元を可視化した世界と「愛は時空を超える」のロマンに惚れ惚れした、正にノーラン教信者だったわけであります。
しかし、世界大戦を妙なタイムラグで構成した「ダンケルク」や、「テネット」でただただ観客を遠ざけるような不可解な構成にした彼の作品に、徐々に疑問と不信感を抱くようになりました。
恐らく彼の映画こそ最高だ!と感じていた若かりし頃から、沢山の映画を見て刺激を受け、「面白い映画とは」という指標ができたことによる差が、こうした疑問と不信感を生んだのだろうと自己分析したまでです。
よって今回の「オッペンハイマー」、最初からそこまでの期待値はありませんでした。
きっと小難しく作っているんだろうと事前学習や登場人物に至るまで、最悪ネタバレ踏んでもいいからと色々頭に叩き込んで臨んだんです。
その予感は的中。
3時間もの長尺がある中、ありとあらゆる登場人物が出ては消え、しばらくしてから再登場したり、ノーラン得意の時系列ギミックが炸裂し、1942年から1966年のあらゆる事象をシャッフルして構成されてるんですね。
物語は、アインシュタインとオッペンハイマーが何を話したのかをストローズの視点で描きます。
その内幕をラストに持ってくるという構成でキレイに締めているモノの、オッペンハイマーの視点をカラーで、ストローズの視点をモノクロで区別して映しながら、聴聞会の様子だったり、公聴会の様子、グローヴスに指名されてトリニティ実験をする様子、ジーンとの逢瀬、キティとの結婚生活などを行き来して見せていくんですね。
で、個室で行われた聴聞会での証言がどのような内容だったのか、またストローズが公聴会で発した発言が当時どのようなモノだったのかを回想するような形で描いてるんですね。
さらにややこしいのが、メインキャスト以上にサブキャラたちが多く登場。
序盤で顔を出して消えたと思ったら、実はオッペンハイマーの裏でこんなことしてましたとか、ロスアラモスに潜んでいた共産主義者、ロシアに情報を垂れ流していたスパイなどなど、キャラの重要性も立ち位置(オッペンハイマーの味方なのか敵対視してるのか)もはっきりわからないんですよ。
立ち位置が判らないってのに関しては、アカと疑われているオッペンハイマーに味方すると飛び火が来るからって事情もあるんだろうけど、みんながみんな彼を擁護しないもんだから一体お前どっちやねんとw
ただでさえ複雑なのにキャラの立ち位置が判らない、それ以上に時系列を複雑化させたせいで、肝心のオッペンハイマー自身が日本に原爆が投下されるまでの振る舞いと思考、アフターでの振る舞い方や思考が違うわけで、それを交互に見せるから、オッピー自身に心が響かないんですよね。
さっきまでワクワクして開発してたと思ったら、聴聞会で顔面蒼白の表情してて、心理的にどうなっていくのかっていう過程が着られちゃってるわけです。
まぁそういった部分をパズルみたいに散りばめてるんで、最後の方になっていくと「あの時からそうなっていくのか」ってのはわかるんですけど、やっぱりややこしい。
尚且つですよ、基本キャラを寄りで撮ってる上に会話のシーンのほとんどをアップで切り返してやってるもんだから、画に芸がないんですよ。
例えば、オッピーとグローヴスの会話があったとして、一方が話すシーンだけを映して聞き手は映さない、これをアップで撮りながら、相手のターンになったら切り返す、みたいな。
聞き手越しで話し手を映すような会話のシーンはほとんどないんです。
だから目まぐるしくカットがかかる。
ただでさえ疲れる内容なのに、もっと疲れるような会話シーンなんですよ。
ただ、しっかり音も爆風も遅れてくるリアルさがある爆破のシーンや、「宇宙の幻影」に惑わされているオッペンハイマーが見る世界は、粒子が飛び交ったり火花が飛び散ったりと、量子力学だか核分裂だか核融合だかわかんないけどノーランらしい映像表現だったから、差し引きすれば飽きないようにはなってましたけど。
面白かったところで言うと、聴聞会に出席する弁護士をジェイソン・クラークが演じていてるんですけど、まぁ腹の立つキャラで。
そもそもストローズが仕組んだ罠なので、オッピーには不利な取り調べなんですよ。
だから証言にし来る人やオッピーに対して、重箱の隅をほじくり返すようなことばかり言って責める責める!
その度に追い込まれたり訂正したり、時には認めざるを得ないことを言わなきゃならならなくなるオッピーの苦悶の表情がまたたまらないんですけど。
でも終盤に妻のキティが証言するシーンは格別なんです。
それまで誰一人味方してくれない状況が続く中、唯一ジェイソン・クラークを論破するような返しで室内の空気を制圧してくんですよ。
キティって、子育てノイローゼで酒飲んで荒れるみたいな小難しいタイプの女性なんですけど、かまってちゃんオーラ全開のジーンとは対照的に、外で女と遊んでも結構だけど、あなたは世界を驚かせる天才なんだから、しっかりせんかい!と尻に火をつけるタイプの女性なんですよ。
だからこの聴聞会の黒幕がストローズであることに気付いて激怒したり、自分の保身に突っ走ったテラーには思いっきりガン飛ばすとか、肝が据わってるんですよ。
そんな彼女が夫のために一肌脱ぐというか、巧く戦えない夫のために議論を有利に運ぶようなクレバーなやり取りを見せていくんですね。
ここはホント爽快でした。
他にも、いよいよ終盤に差し掛かったトリニティ実験を実行するまでの過程は見ていて「これだよノーラン!」と思いましたね。
他の映画そうだけど、計画段階の中で皆が一つになっていくのをダイジェストで見せたりするのってめちゃくちゃワクワクしますよね。
そういう「プロジェクトの内幕」のディテールをしっかり描いてるのは、職人だなと思いました。
最後に
ひとつだけ「このシーンバカだろ」ってところがあって。
聴聞会で共産党員だったジーンとの仲を深く聞かれるシーンで、途中オッピーが真っ裸になってるシーンがあるんですよ。
ジーンが自死する手前のいちばん精神状態が不安定な時期で、外出する出先で会って体を重ねてしまった時の回想後に、そういうシーンが挟まれるんですけど。
恐らく「妻のいる前で一番聞かれたくない=丸裸にされてる」ってのを表現したと思うんですね。
で、この後、真っ裸になったジーンが聴聞会中で文字通り丸裸にされてるオッピーにまたがってるんですよ。
で、オッピーに乗っかった状態のジーンは、後ろで座っているキティをじっと見つめるという。
このシーン、キティが想像している脳内世界をこちらに見せているわけですけども、俺的には「は?なんでこんなことすんの?バカなの?」と。
皆には見えてないことになってるけど、俺らには見えている。
キティの心理状態を示すのに、なんでこんなシーン撮ったんだろうと。
そんなことしなくても切羽詰まってるのとか、キティが今どんな思いでこっち視てるんだろうとか、伝わりますよと。
今回ジーンとの絡みが普通にあって、ノーラン映画では初めてことなんじゃないかと驚いたんですけど、このシーンに関してはその驚きを越えて呆れてしまいましたね。
客を信じてない証拠だなと。
まとめに入りますが、映像と音は凄まじい。
それは認めるモノの、それって裏を返せば見せかけに過ぎないんですよ。
オッペンハイマーの罪と罰をストレートに描く自信の無さの表れとしか、俺には思えませんでした。
クライマックスだって、ジェイソン・クラークにボロクソ責められて自身の過ちを認めざるを得ない姿を映して、アインシュタインとの会話に持っていく。
「世界を破壊した」
という告白をして幕を閉じるんですけど、「は?」ですよ。
意味は理解してますよ。そのあとに世界中に核ミサイルが発射されるんですから。
オッピーが作った原爆は、世界中の大気を燃やし尽くして爆発することはなかった。けれども、原爆を作ったことで世界中が開発競争を始め、保持することになってしまった。
核が連鎖反応することはなかったけど、核開発競争という連鎖反応を引き起こしてしまった。
作ってしまった物のボタンを誰かが押せば、また誰かがボタンを押す。
そんな世界を作ってしまった男の罪深き表情をクローズアップで映して幕を閉じる。
もっと表現方法があるだろうって思っちゃったわけですよ。
ストローズの末路だって、ヒルというエンリコ・フェルミという科学者の助手が公聴会にやってきて、「全てストローズが個人的な恨みでやったこと」とか発表しますけど、いやいやお前さ、ずっと原爆反対の嘆願書にサインお願いします!ってやってただけじゃん!なんでそんな内幕まで知ってるの!?っていう。
どこでそんなネタを嗅ぎまわってたの?と。
急に出てきて勝手に話しまとめんなよって思いました。
また公開後、多くの人が本作を見ると思われます。
原爆投下のシーンがないことに対する「大国の怠慢」みたいな言葉が横行すると思いますが、あくまでオッピーの視点で描くわけで、彼が見ていない世界はこの映画には不要である代わりに、どれだけの犠牲者が出たのかに対しての恐怖をちゃんと見せています。
ただ、弱いです。
中途半端です。
そこをもっと強調しなければ、彼の苦悩は幼稚にさえ思ってしまいます。
ストローズがイラつくのもわかるなぁと。
とにかく伝記映画くらい、ストレートにやれよ、果たしてこの映画がオッピーをリスペクトしてるのか正直疑問です。
今後もノーラン映画を追いかけつつ、良いモノは良い、ダメなモノはダメだと語りたい次第です。
正直ここまでがっかりだとは思いませんでした。
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆★★★★★★★3/10