ロストケア
私の両親もだいぶ年を取ったせいか、体のあちこちにガタがきており、しょっちゅう○○が痛い、だの、病院に行ってきただの報告を受けます。
健康でいてほしことが一番ですが、もし「介護」が必要になった場合、息子としていろいろ考えなくてはならない年齢になりました。
もし「要介護」になった場合、東京から地元へ戻らなくてはならないだろうし、施設にいれるのか、介護サービスをお願いするのか、その辺の費用はどうするのか、いろいろ兄弟や親せきなどと話し合いをしなくてはならないわけです。
ただでさえめんどくさがりな私は、そんな時期が来てほしくないことを強く望んでますが、避けては通れない道だと早めに腹を括らないとなぁと日々思っております。
今回観賞する映画は、そんな介護問題をテーマに、介護に疲れた者たちを「救う」ために介護者を殺害するという男と、彼に正義を突き付ける検事との対峙を描いた映画。
私にとって未知の領域である介護の現実とだったり、本作で想起するあの介護施設で起きた事件のことなど、色々深く考える作品になると思われます。
早速観賞してまいりました!!
作品情報
葉真中顕の第16回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作を、「こんな夜更けにバナナかよ」、「そして、バトンは渡された」、そして「水は海に向かって流れる」、「大名倒産」などが控える前田哲監督の手によって映画化。
献身的に勤めながらも「救い」と称して合計42人を殺害したとされる介護士、彼を法の正義で裁こうとするも、厳しい介護の現実に直面し揺らぐ検事との、互いの正義をかけた緊迫のバトルを描く。
「聖の青春」、「BLUE/ブルー」、「川っぺりムコリッタ」など、様々な映画でカメレオンの如く演じる松山ケンイチが、自分の信念に従って殺人を繰り返す介護士を熱演。
まるで自分のことのように考えながら演じたと語る松山の静かな佇まいに注目だ。
そしてそんな殺人者が掲げる正義や現実に心が揺れながらも、法の名のもとに正義を突き付ける女検事役を、「コンフィデンスマンJP」シリーズから、「MOTHER マザー」に至るまで幅広い役柄をこなし成熟していく長澤まさみが演じる。
他にも「バイオレンスアクション」の鈴鹿央士、「銀河鉄道の父」の坂井真紀、「沈黙のパレード」の戸田菜穂、「ある男」の柄本明などが出演。
年々深刻な問題となっていく「介護」問題をテーマに、なぜ殺害することが救いなのか、なぜ救われるものがいるのか、そしてなぜそんな男を法で裁くことに心が揺らいでしまうのか。
自分の身にも起こりうる問題を真正面から捉えた、社会派エンタテインメントです。
あらすじ
早朝の民家で老人と訪問介護センターの所長の死体が発見された。
捜査線上に浮かんだのは、センターで働く斯波宗典(松山ケンイチ)。
だが、彼は介護家族に慕われる献身的な介護士だった。
検事の大友秀美(長澤まさみ)は、斯波が勤めるその訪問介護センターが世話している老人の死亡率が異常に高く、彼が働き始めてからの自宅での死者が40人を超えることを突き止めた。
真実を明らかにするため、斯波と対峙する大友。
すると斯波は、自分がしたことは『殺人』ではなく、『救い』だと主張した。
その告白に戸惑う大友。
彼は何故多くの老人を殺めたのか?
そして彼が言う『救い』の真意とは何なのか?
被害者の家族を調査するうちに、社会的なサポートでは賄いきれない、介護家族の厳しい現実を知る大友。
そして彼女は、法の正義のもと斯波の信念と向き合っていく。(HPより抜粋)
感想
#ロストケア 観賞。
— モンキー🐵@「モンキー的映画のススメ」の人 (@monkey1119) 2023年3月24日
介護に悩む家族と認知症の老人を「救った」男は、果たして正義なのか。
社会の問題点をしっかり取り入れながらエンタメとして作ったことは素晴らしいが、検事側が弱くて対立できてない気がした。
あと泣かせるような演出必要かこれ。 pic.twitter.com/d3ulI7uqup
喪失の介護と称して老人と家族を「救う」正義から、自己責任を押し付ける国と社会の穴を指摘する問題作。
たまたま検事の母親が老人ホームにいて、父が孤独視してるって設定だからいいけど、それが対立化してるかというとちょっと疑問。
こちらが見たいのは、もっとエグい現実見せて法がガバガバっていう視点だったんだよなぁ。
以下、ネタバレします。
社会の穴から抜け出すには。
認知症を患う老人をケアするはずの介護士が42人もの老人たちを殺害したというショッキングな事件を題材に、あくまで救ったと主張する男の言い分に、法を司る検事がどう退治するかをメインとしたサスペンス映画だと思いきや、介護って辛いけ迷惑かけるのが家族だからというおセンチなまとめでウェットに持っていく構成に疑問を感じ、結局VS的な展開が検事側が負け過ぎていて勿体ない作品ではあったものの、自分にも起こりうる問題として興味深く鑑賞させていただきました。
中々ハードな内容になっているのだろうと覚悟して臨んだ本作。
介護の光景は正直直視しがたいモノでした。
認知症を患う親の介護をする息子や娘たちの姿は皆ボロボロ。
子供の面倒見ながら昼も夜も仕事をし、その合間を縫って介護。
介護センターの人たちも決してボランティアではないですから、毎日来てくれるわけではないわけで、そうした現状を見ながらぼやく中堅スタッフもいれば、新人ながら一生懸命介護に励むスタッフもおり、色々割り切った地わり切れなかったりしながら介護の仕事をされてるんだなぁと。
そんな中献身的に淡々と介護をするのが今回の首謀者である斯波という男。
白髪なのは決して染めてるからではなく、いろいろ苦労したからだろうというスタッフの推測通り、彼の過去もまた壮絶なモノだったということがその後明らかになるんですが、要は彼が献身的に介護している裏で、おじいちゃんおばあちゃんを殺していたわけです。
一見するとめちゃめちゃ怖い話で、下手したらサイコパスとも取れる殺人鬼なんですが、話を追っていくとそうでもない、精神的にも正常な男だったわけです。
コイツの言い分は、自分が父親の介護をしていた時に大変苦しい思いをしたのと同時に、父親も頭も体も融通効かないせいで自分の子供の人生を台無しにしてしまっている後悔から「殺してくれ」という言葉を受け、ついに殺めてしまったと。
そこから自身の経験と同じように介護で苦しんでる老人や家族がいることを知り、正義心が目覚め、40人もの老人を殺し家族ともども「救った」という言い分を主張するわけです。
実際斯波は父親の状態がひどくなることで仕事ができず、貯金もどんどんなくなり生きていくことすら危ぶまれた状況だったことから、生活保護を受けようと役所に駆け込むも冷遇される始末。
これを社会の穴と彼は言うんですが、この穴の真髄は「思考すらもやられてしまう」点にあり、あまりに言うことを効かない親父に暴力を振るってしまうほど精神をやられてしまうことだと語るんですね。
ここまで墜ちてしまうと、もうどう足掻いても穴から抜け出せないと。
自分は介護をした経験がないので、斯波の精神状態がどれほどきつかったのかは容易に理解できないんですが、本作は彼がどんどん精神を蝕んでいく姿を、徐々に白くなっていく毛髪で表現しているんですね。
余りの疲弊ぶりによって髪が白くなるって、年齢の若さから中々の苦労だったんだなぁと。
どんなにブラック企業で働いてる人でもここまでの白髪には普通ならないんじゃないかと。
こういう姿を見て父親を殺めてしまったという経緯は、中々胸に来るものがありました。
しかし彼はそこから資格を取得してまで自分の正義を全うしたのには、正直疑問は残るわけでして。
実際彼は介護で疲弊している家族たちの姿を見たり、盗聴器で現状を把握しながら殺害を実行していたわけで、別に家族に頼まれたとか、要介護者から頼まれたわけではなく、あくまで聖書に書かれた「人にしてもらいたいと思ったことは、人にしてあげなさい」という教えの元に行動していたわけです。
時に正義は、自分が正しいと思うこと以外は敵や悪と見做してしまうと、どんどん歪んでいってしまう物ですが、正に本作で彼が示した正義は、普通の考えからすると行き過ぎたものとしか、僕は思えなかったですね。
確かに救われた人もいる。
坂井真紀演じたシングルマザーは、母の認知症介護に追われながらも子供の面倒を見なくてはならず、ついつい苛立って暴力を振るってしまうことがあり、母親の介護さえなければ自分の人生はもっといい方向に向かっていくのにという気持ちがあったためか、検事からの事情聴取では「彼に救ってもらった」とこぼしているほど。
逆に戸田菜穂演じる主婦は、昼も夜も仕事に加え3人の子供がいることから、毎日過酷な状況で、表情がとにかくヤバそうな、鬱一歩手前まで陥ってたように思いますが、彼女は裁判の傍聴席で、斯波のことを「人殺し!」と叫んでいることから、勝手に親子の絆を絶とうとしてんじゃねえ!くらいの怒りをぶつけておりました。
介護は確かに辛い。
正直できる事なら自分も率先してやりたいとは思いません。
親に迷惑かけてきたんだからそれくらいしろというのが世間の声かもしれませんが、誰だって大変なことは避けて生きたいでしょうよ。
それでもその時が来たら家族で介護をすることになるんだろうけど、TVドラマ「俺の家の話」を見てた時に、親父の股間を洗うことができない長瀬智也が「息子だからできない」と嘆いたときに、なぜか涙を流した経緯があり、息子だからそれくらいやれよと言われても、息子だからそんなことできないんだよなぁ…と正に自分がぶつかりそうなことを代弁してくれた長瀬のセリフにやられたんですよね。
だからといって斯波のような奴が勝手に「救う」ことをしたら俺も許せないよなぁと。
仮に、百歩譲って、それをしていいのはお前じゃねえ、勝手にお前の正義を振りかざしてんじゃねえと。
そんな風に思った映画でしたねえ。
長澤まさみサイドが弱い
こういう正義と正義のぶつかり合いから見える矛盾を描いた映画って、俺的にパッと思いつくのが「ダークナイト」だったりするんですけど、本作は残念ながらダークナイトのバットマンとジョーカーのような偏った正義同士のぶつかり合いとは比べ物にならないほどのぶつかり合いだったなぁという印象を受けました。
そもそもそれと比較してどうすんねんて話なんですが、あまりにも長澤まさみ演じる検事側の主張がキレイごと並べてばかりで面白みに欠けるんですよね。
一応設定としては、母親が老人ホームに入居しており、わざわざ娘が介護をする必要なく仕事に没頭できる環境下にあるんですね。
でも父親とは既に離婚しており、20年近く会ってないことが明かされ、冒頭で立ち会った孤独死の現場の正体は彼女の父親であったと。
斯波との直接対決は虚勢を張って法律を武器に「あなたのしたことは紛れもない犯罪です」と言い切っていたものの、多面鏡に映った姿や机越しに反射する自分の姿を映すことで「心の揺れ」を見せており、立場上そういうきれいごとでしか彼を論破することができない状況だったことが窺えます。
確かに介護において金銭面に余裕があれば、誰もが老人ホームに預けることができるんでしょう。
斯波いわく「安全地帯」だそうですが、週末もしくは月に1度顔出して、元気かどうか様子を伺い、面倒な介護はスタッフが全部やってくれるわけですから、そりゃ毎日疲弊しなくて済みます。
特に認知症に関しては放浪する心配もないでしょうし。
しかしそれはあくまで金銭面に余裕のある安全地帯だからできるケアであり、みんながみんなそうできるわけじゃない。
寧ろお金の問題どうこうよりも、もっと社会全体が誰もが介護問題に負担がかからないような仕組みが必要であり、なんでもかんでも自己責任で片づけてしまう国がおかしいわけで。
冒頭でも綾戸知恵演じた万引き犯が「刑務所で過ごしたい」という言い分の本心は、このまま社会にいてもロクなことがないから、三食食わしてくれてあったかい所で生活できる刑務所の方がよっぽ快適だということで、どんどん増えていくお年寄りの数に国はどうするのかホント考えてほしいところですよと。
話はそれましたが、結局本作は検事側にそうした背景を入れることで、斯波がやったことにも同情の余地がある、あなたの気持ちわかりますということで終わらせてしまっていて、変な話サスペンスというよりもウェットな話に留めてしまっているのが非常に残念だったなあと。
製作したいと思った意義は汲み取りますが、決してお涙頂戴のようなエンタメで終わってほしくないんですよ。
もっと深い所に入り込んでほしいんですよね。
極端に言えば法が通用しないとか、それこそ検事の上司が事件が注目浴びてるからさっさと澄ませろみたいなこと言ってたけど、そういう手が加えられてしまっている構造とか、それこそ世論の声がほとんどないですよね。
裁判の前で看板掲げてる人たちがいましたけど、それだけですからね。
最後に
法を逸脱して正義を遂行する「必要悪」みたいなことに対して翻弄されてしまう検事の姿を軸に描けば、例え判決が下ってもこの国の在り方を憂うみたいにして終わらせるか、もしくはそれでも彼のしたことは同情の余地があるにしろアウト!と論破するような終わらせ方の方がドラマとしても我々に問うカタチとしてもいいのかなぁと。
どうも斯波の過去を見せて同情を買うような見せ方してるもんだからモヤモヤするんだよなぁ。
気持ちは理解できるけど同情はできないんだよなぁ。
でもこれも当事者の立場にならないと、視点を変えないと見えてこないんだよなぁきっと。
検事も言ってましたからね、見えるものと見えないものでなく、見たいものと見たくないもので出来ているのがこの世界かもしれないって。
しかしこういう問題をエンタメにした意義は大いに買いたいと思います。
社会問題を取り扱うことで我々に考えさせるという点では素晴らしいことかと。
もちろん受け取った側はこれをエンタメで消費するのでなく、自分の人生と今後起こりうる将来のために課題にしないといけないと。
とりあえずは両親にいつまでも元気でいてほしいことを望みたいですね。
今年も帰省して元気かどうか確認しないと。
というわけで以上!あざっしたっ!!
満足度☆☆☆☆☆★★★★★5/10