モンキー的映画のススメ

モンキー的映画のススメ

主に新作映画について個人の感想、意見を述べた文才のない男の自己満ブログ

映画「カラオケ行こ!」感想ネタバレあり解説 「紅」に染まったこの俺を慰めてほしい。

カラオケ行こ!

いつだったか「アメトーーク!」の「マンガ大好き芸人」の回を見ていた時の事。

もう何年も新たな漫画を漁っていない自分が、「あ、これは面白そうだな」と思った漫画が紹介されてたんですよね。

 

ここ数年のアメトーークの回の中で、こういう「芸人が様々なことを紹介しながら熱く語る」系のトークが凄く好きで、それこそこの「マンガ」の回もそうですし、「好きなお笑い番組を語る」回なんてのも面白かったんですよね。

 

そこそこのトークスキルを要することはもちろんなんだけど、その作品や番組に対する熱量といいますか、「好きだ」という思いを見聞きしていると、ものすごくそれに興味が沸くんですよね。

自分のブログもそんな存在でありたいなぁ、なんて思ったり思わなかったりなんですけどw

 

話はそれましたが、その中で紹介された漫画が、何と実写映画化されるということで、非常に楽しみにしておりました。

なんでも歌が上手い少年が、歌の下手なヤクザに歌を教える羽目になるという、中々出会わないようなコンビのお話。

 

絶対交わることのなさそうな二人に、一体どんな化学反応が起きるのか。

早速観賞してまいりました!!

 

 

作品情報

和山やま原作の同名コミックを、「リンダリンダリンダ」や「1秒先の彼」の山下敦弘監督と、「アイアムアヒーロー」や「図書館戦争」、「罪の声」やTVドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」など、映画TV共にヒット作を量産する売れっ子脚本家・野木亜紀子の手によって実写映画化。

 

とある事情で歌が上手くなりたいヤクザが、合唱部部長である少年に歌の指導をお願いすることから始まる奇妙な友情を、オフビートな笑いを織り交ぜながら描く。

 

歌が上手くなりたいヤクザ役を、「最後まで行く」やNetflixドラマシリーズ「幽遊白書」などで存在感を放ち続ける綾野剛が見事に熱演。

今回X JAPANの「紅」を熱唱する歌唱シーンが披露されることで注目を集めている。

また、変声期の壁にぶつかりながらも歌唱指導をする羽目になる合唱部部長役を、「正欲」で磯村勇斗の少年時代を演じた斎藤潤が、見事オーディションを勝ち抜き役を掴んだ。

ヤクザに対し物怖じしないクールな一面を覗かせながらも、綾野剛演じる狂児への気持ちが変化していく姿を見事に表現した。

 

他にも、「」、「Arc」の芳根京子、「ヘルドッグス」の北村一輝、「お前の罪を自白しろ」の橋本じゅん、「キングダム運命の炎」のやべきょうすけ、同じく「キングダム」シリーズの加藤雅也、さらには、ヒコロヒーチャンス大城といったお笑い芸人から、湘南乃風RED RICEなど、幅広いジャンルのキャストで送る。

 

もう二度と届かないこの思い

閉ざされた愛に向かい叫び続ける

 

そんな紅の歌詞のように、一方通行な思いになってしまう展開はあるのか。

 

決して交わることのなかった2人は、どのようにして絆を深めていくのだろうか。

 

 

 

 

あらすじ

 

合唱部部長の岡聡実(おかさとみ)(斎藤潤)は、ヤクザの成田狂児(なりたきょうじ)(綾野剛)に突然カラオケに誘われ、歌のレッスンを頼まれる。

 

組のカラオケ大会で最下位になった者に待ち受ける“恐怖”を回避するため、何が何でも上達しなければならないというのだ。

 

狂児の勝負曲はX JAPANの「紅」。

聡実は、狂児に嫌々ながらも歌唱指導を行うのだが、いつしかふたりの関係には変化が・・・。

 

聡実の運命や如何に?そして狂児は最下位を免れることができるのか?(HPより抜粋)

youtu.be

 

 

感想

ヤクザと中学生の奇妙な友情、相手への思いが紅色に染まる瞬間、俺もハートがめちゃめちゃ痛くなって号泣…

敦弘節もすごく効いてくすくす笑いながら友情を覗けたことに感謝。

以下、ネタバレします。

 

 

 

 

 

 

 

楽しみにしてただけあった。

正直ヤクザとつるむなんてことはしたくない。

何されるかわからないし、付き合ってる事というだけで周囲から視線も気になるし、俺もハブられるかもしれない。

仮に「良い奴なんだよ」と思っても、気がついたら向こうのムチャな要求を断れないような情が湧いてしまうかもしれない。

 

とにかく仲良くなってもメリットがない。

 

しかし、しかしだ、ただ「カラオケに行って歌を教える」くらいの仲なら、OKと思ってしまう。

それくらいならいいだろう、というか、この成田狂児という、ヤクザとはいえ昔気質の筋のとおった任侠魂があり、そこそこの教養と愛嬌のある奴なら、むしろ一緒にカラオケに行ってみたい。

 

本作を見てそんなことを想ってしまった。

 

ということは、俺はいつしか岡聡実の視点で見ていたことになる。

というか、本作は自然と彼と同じ気持ちになるように仕向けた映画だと思った。

 

だから、彼が歌う「紅」は、変声期故高音域がかすれて上手く出ない、決して完ぺきではない歌え越えでないにもかかわらず、正に彼が抱いた思いと同じように「失った狂児への思い」として耳に届いたわけで、そりゃ泣くだろと。

 

紅に染まったこの俺を慰める奴がいないので、こうして慰めてほしくてブログ書いてますw

ホント大げさかもしれなけいけど、このシーンに限っては「リンダリンダリンダ」のライブシーンを越えたと言ってもいいくらい、感情がほとばしりましたw

 

もちろんこういう気持ちになったのには、しっかり聡実と狂児の気持ちが結びついていく過程があっての感情決壊だったわけで、その辺についてあれこれ書いていこうかと思います。

 

奇妙な友情物語

冒頭、ずぶ濡れのまま立ち尽くす狂児がふと立ち止まった場所は、聡実が出場する合唱コンクールの会場だった。

彼の歌声に惹かれた狂児は、一人会場を歩く聡実に「カラオケ行こ」と声をかける所から、2人の奇妙な関係が描かれていく。

 

正直このシーンは、リアルに欠けるんですよね。

そもそも素性の分からない大人からカラオケに誘われてノコノコついていく中学生がどこにいるんだとw

誘われた瞬間、次のシーンはカラオケBOXですからねw

 

一応ここで「何者なのか」や「なぜカラオケに誘ったのか」が明かされるわけですが、普通ならこの時点で付き合いきれなくて断るんですよw

最悪店員呼ぶとか警察呼ぶとかって展開になり得るんですけど、聡実くんはそうはしない。

この時点で、聡実くんは「ヤクザ=恐いというイメージ」を持っていながら、「意外と腰が据わってる」性格であることが透けて見えてくるんですよ。

 

そうこうしてるうちに、狂児はXJAPANの「紅」を全パートファルセット(裏声)で歌いきるわけです。

正直音程はそこまでズレてないし、裏声で歌ってる分無理して歌ってない。

だから決して「歌が下手」というわけではない。

 

しかし、この裏声と「紅」という激しさ全開縦ノリ全開の曲にマッチしていないので、ただただ気持ちが悪いのです。

これをちゃんと自分の歌声で披露した綾野剛の演技は最高でした。

 

だいたい、「くれないだああああ!!!」とシャウトしておきながら、いざ歌うと裏声っていうこのギャップこそ敦弘節の真骨頂だと思うんですよね。

こうしたギャップ=ハズシを淡々と見せて笑いを取っていくのが本作の肝でもあります。

 

こうして、二人の奇妙な友情物語が幕を開けるのであります。

 

やはり聡実くんの中では色々な葛藤があったことでしょう。

ヤクザとつるんでいていいのか、親にバレたらなんと説明したらいいだろう、友達や部活仲間にもどう思われるかわからない。

でも、カラオケ教えたらチャーハン頼める…

 

そんな些細な下心もありながら、狂児のヤクザスマイルに連れられて通うことになる聡美くん。

 

先ほども書いたように、聡実くんは腰が据わってるからか、顔に似合わず意外と「ズバッとモノをいう」タイプの子。

狂児の歌の指導に関しても、裏声がキモイと言い放つし、教則本を渡したのも早く帰らせるためで、決してちゃんと教える気もない。

ヤクザ相手によくそこまでできるモノだと戦々恐々な気持ちで彼の動向を見守る羽目になるわけです。

 

その後もヤクザの同僚を誘って行われた合同カラオケ指導シーンでは、様々な歌を披露した後にバッサバッサぶった斬る聡実くん。

「声と歌があってない」、「体力付けろ」、しまいには「カス」と一刀両断してしまう。

幾ら思ったことを言っていいからって、それをよくヤクザに言えるな、というか大人を大人として見ているのか聡実よ、さすがに言葉をわきまえて指導したまえ!

もちろんヤクザの一人はブチ切れて暴れ出すことになるわけですが、狂児がしっかりフォローするんですね。

 

ズバズバモノを言う強心臓な聡実くんですが、やっぱりまだ子供、というか、ヤクザはやっぱり怖いというイメージが再び芽生えてしまい脅えてしまいます。

そこで彼に「怖くないから、大丈夫だから」というフォローではなく、「怖かったか、ごめんな、じゃあ次は呼ばないから」とちゃんと相手の気持ちに寄り添ってくれるのが狂児なんですね。

 

 

本作を見てくうちに気付くのは、ズバズバ言われることに決して目くじらを立てず相手をリスペクトできる気持ちを持ちながら、しっかり茶目っ気も忘れない気さくな部分をもっている狂児こそができた人間なのではないかと。

肩書だけで決めつけてしまうステレオタイプな部分を外してみていくと、明らかに教わってる側の人間が、教えてる側の人間の心を動かして変化させてるのではないかと。

 

何が奇妙な友情ってそういうところだったりするんですよね。

そうした色眼鏡をしっかり外させてくれる物語でもあったのかなと。

 

 

こうした狂児の優しい振る舞いが聡実くんの中で「彼にならちゃんと指導やアドバイスしてもいいかな」という気持ちにさせ、それまで狂児のおごりで食ってたチャーハン目当てのためだけでなく、「師匠と教え子」という関係の下、歌の指導へと向かっていくのであります。

 

聡実くんは、「なぜ自分の音域とあってない紅ばかりにチャレンジするのか」や、「しっかり歌詞を読み解くことで歌に気持ちが乗っかっていく作業」、「音域に合った選曲をピックアップ」したりと、ちゃんと指導するようになっていくと同時に、彼の出自へと興味が向かっていくのです。

 

そもそも歌が上手くなりたい理由が「組長から絵心のない入れ墨をほられる」ことを回避するためというしょうもない理由だったわけですが、人間そのものに興味を示していく過程は、友情物語にとって必然なわけで、上手な運びだったように思えます。

 

成長期故の葛藤

もちろん本作は、狂児の歌指導から紡いでいく友情物語だけではありません。

聡実くんにもしっかり「事情」を付け加えることで、2人の関係性が密になっていくのです。

 

それは成長期によって訪れる声変り。

合掌部の部長としてみんなを束ねる立場であるはずの聡実くんでしたが、担当するソプラノパートでの高音域が出にくくなってしまっていたのであります。

よって練習も実が入らなかったり、冒頭の大会後の様子も一人だけふがいない様子でした。

 

これまでちゃんとできていたことができなくなっていく。

そうしたフラストレーションは、後輩の男の子にも生じていき、ちゃんと歌えない聡実くんを、ちゃんと歌おうとしていないと見られ、感情をぶつけられてしまうのであります。

本来なら、声変りによる葛藤を誰かに相談すべきなんだろうけど、聡実くんは中々誰かに話そうとしない。

しかし、顧問の先生や部活仲間の女子はその辺をちゃんと理解してるので、例え練習をサボろうが途中で離脱仕様が許すんですよね。

これって合唱部あるあるなんですかね。

実際デリケートな問題でしょうし、パートを変えて歌ってもらうほど簡単に解決できない部分だったりするんでしょう。

 

僕も変声期を迎えた当初は、流行りのJ-POPを歌うことが凄く難したかった時期があったので、聡実くんの気持ちはわからなくもないです。

マジで歌いづらいんだよ、変声期なりたての時!

声が低くなるので、それまで歌ってたキーだと歌えないんですよ。

逆に無理して高音域で歌おうにも出ないので、当時必死に弾き語りで練習していた「名もなき詩」のサビとか声が出なくて悔しかった思い出がありましたw

 

 

その憂さ晴らしなのか、新たに見つけた「やりたいこと」なのかは本人にしかわからないけど、失いつつあるものと引き換えにできた新たな出来事によって、聡実くんは少しだけ成長したように思えます。

 

そうやって築き上げた関係だからこそ、聡実くんは狂児に「高い声が出ない」ことを初めて他者に打ち明けるんですよね。

心を許せた証拠です。

ここで狂児が良いこと言うんですよ。

屋上から錆びれた街を眺めながら「なんでもかんでもキレイなモノだけがいいってなったら、この町もろともとっくになくなっとる」と。

 

これって恐らくヤクザとして暮らす自分の立場にも言えることで、歌でも街でも誰彼とわず、そうやって「正しい」とか「キレイ」とかだけを求めてそれ以外を排除することだけが美しいのかと。

 

もちろんセリフの本質は高音域の出ない聡実くんに「高い声が出なくたってそれも歌じゃん」と励ましてくれてるんだろうけど、野木さんの脚本だからこうしたダブルミーニングみたいな伝え方だと思うんですよね。

終わりの部分でも彼が暮らしていたミナミ銀座は再開発で消えてしまうというオチがあるんですけど、慣れ親しんだ景色を「キレイ」にしてそこにいた人たちを排除してしまう皮肉にもなっていて、スクラップアンドビルドも考え物だなと思ってしまったというか。

 

 

クライマックスの感動

こうして聡実くんは、色々吹っ切れて合唱部の練習に戻るようになり、カラオケ大会と同じ日に行われる合唱祭に向かっていくのですが、狂児のちょっとしたイジリが聡実くんの逆鱗に触れてしまう羽目に。

 

3年間全国大会で優勝する夢に向かって一生懸命練習してきた自分と、しょうもない理由で歌が上手くなりたいあんたとはやってきたことが違うんだ!と激しく啖呵を切ります。

ここでも狂児は、素直に謝り関係を修復します。

 

あんなに怒鳴ったのに、上げようとしていたお守りも投げつけてしまったし、ヤクザ相手に言ってはいけないことまで行ってしまったにも拘らずちゃんと謝ってくれるヤクザ。

彼もちゃんと練習してきたし、目標に大きいも小さいもないと。

互いが言い結果になるように頑張ろう、そう聡実くんは思ったのだと思います。

 

しかし当日、狂児を悪夢が襲うのであります。

それは波紋にした男の逆恨みによって車ごとツッコまれて救急車で運ばれる姿を、聡実くん自身がその目で見てしまったこと。

 

結局合唱祭を抜け出し、カラオケ会場へ向かう聡実くん。

組長の口から聞かされた言葉は「あいつは地獄へ行っちまった」。

組の仲間が死んでしまったのに、予定通りカラオケ大会を実行する彼らに虫唾が走った聡実くんは激昂します。

腰が据わっているという性格が一番発揮される瞬間、めちゃめちゃ正論を言うんですよね。

だからお前らヤクザなんだよってw

良く言えたよ途中までビビってたのにw

 

そして聡実くんは組長からマイクを渡され「あいつの鎮魂歌としてここで歌え」と要求されます。

歌うのはもちろん「紅」。

 

大会で最下位にならないための策として音域の合う曲目を用意したのに、一曲歌うごとに「紅」を歌ってしまう狂児。

最愛の人カズコを想って歌ってるのかと思ったら全然関係なかった「紅」。

何でで歌っても裏声で歌ってばかりだった「紅」。

 

そんな「紅」を、聡実くんは熱唱します。

ソプラノパートを担当した合唱部の部長だけあってキレな歌声であるものの、サビになるとその高音域は発揮できません。

喉が締め付けられキレイに声が出せないのです。

それでも彼は熱唱します。

 

初対面時の馴れ馴れしさを疎ましく思ったこと、でもヤクザは怖いなと思ったこと、LINEの返信がめちゃ早いこと、車で家まで送ってくれたこと、助手席の引き出しに指が入ってたこと、音叉をカスタマイズしてたこと、破門されたヤクザから助けてくれたこと、最初はいやいやながらも狂児さんと行くカラオケが楽しかったこと。

そんな思い出をフラッシュバックしながら歌い上げる聡実くん。

 

そう、既に彼の心は狂児の喪失という紅で染まっていたのです。

ハートがめちゃ痛い。もう耐えきれない。

 

上でも書きましたが、完全に感情移入。

さっきまでちょいちょい笑ってた俺はどこへ行った。

聡実くんと心が同化してるじゃないか…狂児、狂児いい~!!!

何で死んだんやああ!!!

 

 

最後に

もちろんこの続きにはしっかりオチがあるので、最後までハートフルでユーモラスな物語なんですけど、とにかく2人の掛け合いにほっこりするし、涙まで誘う非常にズルい友情映画でしたw

 

正直編集でテンポよく見せればいいのにとか、ヤクザとつるむ事ってそれでいいのかとかいろいろ言いたい面はあるんですけど、本作はあくまで部外者に介入させないような2人だけの世界にすることで、奇妙な友情として昇華させてるんですよね。

実際なら親とか先生とかクラスメートとか割って入ってくるだろうしw

 

またクラシック映画を使うことで物語を次のクエスチョンへと導くのが面白かったですね。

白熱を見ながら「ギャング⇒ヤクザ⇒クズ」みたいな話に持っていくし、「カサブランカ」を見て「愛は与えるモノ」と持っていき、「三十四丁目の奇蹟」や「自転車泥棒」を見て、次の展開へ持っていくのは、引き出しとしていい味領だったように思えます。

 

それこそ動画と映画は違う、なんて映画愛がこぼれてたし、巻き戻すことができるビデオテープなのに巻き戻せないことが、色々な面で「巻き戻す」ことへの伏線とも取れる展開だったり。

 

原作では「ファミレス行こ」という続編的コミックがあるそうですが、映画でも是非続編やってほしいですね~w

とにかく狂児と聡実くんの関係をもっと見たい…

というわけで以上!あざっしたっ!!

満足度☆☆☆☆☆☆☆★★★7/10